42歳から4年間、不妊治療を続けていた住吉美紀さんは、治療中「子どもができない人は不幸」だと思い込んでいたといいます。しかし、いったん治療を休み、苦しみから距離を置いたことで、ずっとそばにあった幸せに気づくことができたそう。当時の思いなどをつづったエッセイ『50歳の棚卸し』(講談社)を上梓した住吉さんに、自分の心との向き合い方について伺いました。

「赤ちゃんがいない=不幸」から「いなくても幸せ」に

── 42歳から4年間続けてきた不妊治療を辞める決断をし、子どものいない人生を受け入れるための心の整理は、どのように進めていったのでしょうか?

 

住吉さん:暮らしのなかで、もし子どもがいたら自分はどう感じていただろうと考えたりして、一つひとつ気持ちを整理していきました。たとえば、「これだけ仕事を大事に頑張っているのに、子育てをしながらだと仕事も子育ても中途半端になってしまうと悩んでいたかもしれないな」とか、夫と旅行に出かけたときに「子どもができたら、気軽にこんなふうに旅行できなくなっていたかもな」という具合に。

 

それまでは、赤ちゃんがいない=不幸だと思っていたんです。この先の人生、私は「子どもがいない」とずっと思い続けて生きていかないといけないんだ、と。でも、1年弱、治療をお休みして、心の整理をする時間をつくったことで、赤ちゃんがいなくても夫と2人で過ごす幸せがあることに、もう一度目が向けられるようになりました。

 

それに、自分の能力を生かして社会に役に立っていきたいと考えたときに、ありがたいことに今、私はそういう仕事につけている。だから、その仕事にエネルギーを注ぎ込んでベストを尽くしたほうが、私ならではの生き方ができるかもしれないな、と。あらためて自己対話をして整理していきました。

 

── 今ある幸せに目を向けるって、大切なことですね。

 

住吉さん:過去の出来事は変えられないけれど、過去とどう向き合うか、あるいは過去の出来事を自分がどう感じるかが変われば、過去って変えられると思うんです。その出来事が自分にとってただただ最悪だったのか、何か学びがあったのか。とらえ方によってずいぶん変わりますよね。不妊治療に限らず、あらゆる場面でそうだと思うんです。そのときの苦労があったからこそ、今の自分があるんだ、と気づけるかどうか。「ああいう出来事があったからこそ、私はこの人の気持ちに共感してあげられるんだ」と思えれば、過去は変えられる気がしています。