「子どもを育てるなんておこがましい」と言われ
── 現在は3人のお子さんがいらっしゃるそうですが、何をきっかけに考えが変わったのですか。
小林さん:子どもに対するイメージが変わったのは、福島の農家さんの言葉でした。お子さんが5人いらっしゃる方に出会って話をしていたのですが、よくも悪くも田舎に残っている風習として、「結婚してるの?子どもはまだ?」なんてことも面と向かって聞かれることが多いんです。私は正直に「結婚はしてますけど、子どもはいらないですよ」と答えました。ちょうど、子どもひとり育てるのに何千万円もかかるというのがニュースになっていた時期でした。会話の流れのなかで、「子ども育てるのって大変ですよね」といったら、お母さん方にキョトンとされたんです。「あれ。私、何か違ったこと言ったかな」と思った瞬間に、「子どもを育てるなんておこがましい、子どもは育つんだ」と言われました。
そのひと言を聞いて、一気に肩の力が抜けた感じがしたんです。子どもを育てるのは自分で、その責任も自分。知らず知らずに子育てのプレッシャーを自分にかけてハードルを上げていたので、育児は子どもが主体だと考えたこともありませんでした。仕事しか人生の喜びを感じていなかった私が、「もしかしたら子どもを持つって素敵なことかもしれない」と思い始めたのはこの言葉がきっかけです。起業する前は生理不順もひどかったのですが、そのころはすっかりよくなっていたこともあって、すぐに長女を授かりました。今は、6歳、3歳、0歳の子どもがいます。

── 福島にお子さんを連れて行って仕事をすることもあるそうですね。
小林さん:夫や親の都合がつかないときに、子どもを連れて福島に仕事に行くと、どこに行っても大歓迎されます。「よく来たね!」と温かく迎えてくださることが多いです。地元の銀行に連れて行ったときもほめられました。知り合いの農家さんのお宅では、いつの間にか遊んでもらって、ご飯まで食べさせてもらっていたこともあります。「子は宝だね」と声をかけていただき、多少うるさくしても「元気をもらえるよ」と。うちの子どもたちは大声を出せば出すほどほめられています(笑)。
人の多さも影響しているかもしれませんが、東京で子どもを育てていると、人の目が常に気になります。電車に乗っても周りからうるさいと思われていないか心配ですし、なるべく静かにしているのがよしとされて、子どもの存在自体が迷惑だと受けとられるシーンが多いと感じています。食事に行けば床にこぼしてしまってお店の人に申し訳ないとか、子連れで外に出るとあらゆるタイミングで「すみません」と謝る機会が多いです。福島で私が出合った環境では、子育てに対する社会の寛容さを感じられて本当にありがたいです。この環境があるので、3人の子育てをのびのびとできています。
── 育児と家事はご主人と協力しているそうですね。
小林さん:出産後、夫が1年間育休をとりました。夫は転職して保育園の運営に携わっているので、育児に関する知識は私より豊富です。我が家では家事も育児もどちらか得意な方がするようにしています。料理は私が担当していて、学校や園のお便りを読んだり、子どもたちの予防接種のスケジュール管理をしたりするのは夫の役割です。洗濯物はどちらもあまり好きではないので、お互いの様子をうかがいつつ(笑)、手が空いている方がしています。
── お子さんがいる現在の生活ぶりはいかがですか。
小林さん:子どもを産む前の私は、仕事で自己実現する人生しか幸せではないと思っていました。子どもという自分より大切な存在に出会えた今、ようやく人としての幸せを感じられるようになったんです。「生きていてよかった」という感覚を持てるようになりました。
それに、子育てが仕事に活きることも多いです。たとえば、子どもが本来の用途に関わらずなんでもおもちゃにして遊ぶ姿を見て、「トイレットペーパーってこういうふうにも使えるんだ」と感心してしまいます。ちょっと発想が凝り固まっていたときに一緒に遊ぶと、子どもの発想力がビジネスのヒントになることもあります。