ワークライフバランスも農家さんの発想を参考に
── 育児と仕事のバランスはどうやってとっているのですか。
小林さん:農家さんにヒントをもらって働き方を変えました。会社を立ち上げたばかりのころ、農家さんと仕事の打ち合わせをするために、日程調整をしようとしたんです。打ち合わせって、相手にアポを取って、何日の何時から何時までと設定するところから始まるものだと思っていたんですが、農家さんにスケジュールを聞いても「わかんねぇ」と。私は、その日の予定を聞きたいだけだったので、わからないという回答の意味がわからなくて。
よくよく聞いてみると、自然を相手に仕事をしているからその日の約束ができないということでした。当日の天気次第では作業内容が変わってきますし、時間も読めません。今まで、晴れたら予定していた打ち合わせがなくなるということがなかったので驚いたのですが、この感覚が純粋に「好きだな」と思いました。
太陽が登ったら起きて、夏の間は暑い昼間ではなく涼しい時間帯に働く。日照時間が短い冬は労働時間も短くなります。人間が自然のバロメーターで動くことが本来の姿なのではないかなと思うようになりました。すべては無理でも、概念を取り入れることはできると思い、会社は完全フレックス制で自分や家族の体調や都合に合わせて働く時間も決められるようにしました。
── 効率も上がりそうですね。
小林さん:そうなんです。調子が悪くても必ず何時までは必ず働くとか、自分や子どもの体調不良で休むために有給を使うって、会社に働き方も休み方も委ねていますよね。人生は自分の大切な時間なので、仕事で価値さえ生み出していれば、労働時間は問われない環境を作ろうと思いました。その人によって家族の状況も性格も体力も違うので、自分がいちばんいい状態でいられることが大切。それが子どもたちや家族にとってもいい環境だと思います。
── お子さんが大人になる時代にはどんな社会であってほしいと思いますか。
小林さん:社会情勢や環境、金銭面などで、何かを諦めるということを少しでも減らしたいと思います。私がかつて、仕事と子育ての両立は無理だと思ってしまっていたように、自分の可能性を諦めてしまうことをなくしたいです。今の日本は、人口減少に伴い社会構造自体が変わらざるを得ない、ちょうど転換点に来ている時期なのではないかなと感じます。自分のため、家族のため、やりがいのため、どんな柱があってもいいと思いますが、働くことだけが人生の目的ではなく人生のなかに仕事があるという生き方ができる社会であってほしいです。
取材・文/内橋明日香 写真提供/小林味愛