「欲が出てしまうけれど」介護は現状維持で十分
── 介護は11年間続いたそうですね。
藤さん:介護を始めたのは私が50歳のときでした。それ以来、「いちばんいい形で母を介護したい、そのためにはどうしたらいいだろう」という悩みをずっと抱えていました。誰かに聞こうにも、それぞれ家によってやり方は違います。だから「絶対にこれ」という方法を教えてくれる人は誰もいないんです。私の場合は父も先に亡くなり、自分で考える以外なくて、それがいちばん大変でしたね。
いま振り返れば、あまり欲張らずに現状維持を目指し、毎日を穏やかに過ごしていたらよかったのだと思います。でも、介護をしていると次々欲が出てくるんです。少しでも状態がよくなると、「もっともっとよくなるのでは」と思ってしまって。そこでまた、こうすればどうだろう、ああすればどうだろう、と思ってしまう。どんどん深みにはまっていって、でも渦中にいるときは私自身それに気づいていませんでした。
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介護している間、毎日つけていたという日誌は、11年間で66冊にも及んだという藤さん。苦労と苦悩を抱えた介護生活でしたが、92歳でお母さんは静かに亡くなられました。11年間を振り返り、藤さんは「介護はやってもやっても後悔が残る沼のような感じだけれど、いま思えば脳梗塞で倒れてから11年間も生きてくれただけでもありがたかった」と思っているそうです。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/藤真利子