仕事が忙しく身の回りのことを任せきっていた母がある日、突然倒れたら…。俳優の藤真利子さんは料理のしかたも通帳の場所さえもわからない状況で、要介護5の認定を受けた母の自宅介護を始めます。模索し続けた11年間に及んだ介護生活を振り返り、今、思うことは── 。(全3回中の2回)
身の回りは母に任せきり「通帳の場所さえ…」
── 映画やドラマ、舞台でおなじみのベテラン女優、藤真利子さん。藤さんが50歳のとき、突然お母さんが脳梗塞で倒れ、右半身は動かず、自力では排泄もできない状態に。要介護5の認定を受けるものの、受け入れ施設がなかなか見つからず、自宅介護を始めています。
藤さん:自宅介護をすると決め、まず母の部屋を「病室」にするところから始めました。介護ベッドや福祉用具など介護に必要なものはたくさんあり、それらの置き場所をつくるためには、物を処分しなければなりません。希望する人にはそれまで使っていたベッドをさしあげて、それ以外の母の私物を私の部屋に移しました。そうなると、今度は私の荷物を整理する必要があります。私の荷物の大半は洋服。あまり着ていなかったものは人にあげ、ブランド服は3000円程度で売りました。いま思うともったいないですよね(笑)。「いる」「いらない」を繰り返して、不要なものをまとめたら、ゴミ袋が10数袋もありました。
ずっと母とふたりきりの生活で、家のことは母に任せきりでした。自分の通帳のありかもわからない状態で、自分の貯金額すら知りません。実印が必要と言われたときはもう大騒ぎで、これかなと思って持って行ったら「これは違います」なんて言われてしまったこともありました。

料理も未経験でした。母は料理が上手で、私が何か手伝おうとすると、「もうあんたはうるさいからあっちに行ってなさい」なんて言われていたんです。私がもっと料理に興味を持っていればよかったんでしょうけど、端で見ていても覚えられるものじゃないですよね。何しろ炊飯器の使い方を知らなかったくらいで、そこからのスタート。料理を覚えるというより、もうやらざるを得ない状況です。ただ、料理に関しては、最後まで上達はしませんでしたけど。