連日の猛暑で熱中症対策が必須な日々が続いていますが、夏休み中の今、スポーツやイベントなどで屋外での活動をする機会は増えています。熱中症予防には脳や臓器など、体の深部の体温を下げる必要があるのですが、最近の研究で、手のひらや頬、足の裏に流れている特殊な血管(AVA血管)を冷やすことでその効果があるとわかりました。今すぐ実践できる効果的な熱中症予防について、運動生理学が専門の広島大学大学院の長谷川博教授に伺いました。

手のひら冷却で、体の深部が冷える

── 甲子園でクーリングタイムが導入されるなど、連日の猛暑による熱中症対策が取られていますが、夏休み中ということもあって、部活動やイベントで屋外に出る機会は増えています。水分補給や首元を冷やすなどして対策はしているものの、お子さんを持つ親御さんの心配は尽きません。何か熱中症予防に効果的な方法はあるのでしょうか。

 

長谷川さん:首や脇の下、鼠径(そけい)部などの太い血管を冷やすというのは、熱中症になってしまった場合の対処法として一般的なので知っている方も多いと思います。この方法は、体温調節がうまくいっておらず、すでに体温がかなり上昇してしまっている場合の応急処置として有効です。

 

サッカーの練習
サッカーなど夏の屋外で行うスポーツ中の熱中症予防に手のひら冷却は有効

いっぽう、体温調整ができている方の熱中症予防として効果的だとわかってきたのが、手のひらや足の裏、頬に通っている特殊な血管(AVA血管)を冷やすことです。これにより、冷えた血液が体を巡って深部体温をより効率的に下げることができるということが、ここ10年ほどでわかってきました。

 

── 深部体温とはなんですか?

 

長谷川さん:脳や臓器など、からだの内部(深部)の温度を指します。体温と聞くと、体温計で測ってわかるものというイメージがあるかと思いますが、熱中症予防でより重要なのは、体の深部の温度です。深部体温が上がると熱中症のリスクが高まり、意識障害やけいれんなどが起きてきます。運動をすると熱エネルギーが発生して、体に熱が溜まり体温が上昇していきます。いくら体の外側だけ冷やしても、体の深部の温度が十分に下がっていない場合があるので、運動をしている際には特に注意が必要です。

 

── 深部体温を冷やすための方法について教えてください。

 

長谷川さん:スポーツの合間や運動後など、体が暑いなと感じたときに5分程度、手のひらを水で冷やしてください。足の裏も一緒に冷やすのがいいのですが、スポーツ時は靴と靴下を履いていて現実的に難しいかと思いますので、手のひらで行ってください。夏場は水道の温度も上がっているので、屋外では氷水を用意していただけたらと思います。

 

── 水の温度の目安はありますか。

 

長谷川さん:いちばん効率よく冷やせる温度がだいたい15度ですが、これは温浴施設に行って、サウナの後に入る水風呂に近い温度です。冷たいと感じるとは思いますが、キンキンに冷えすぎる感覚はないと思います。冷蔵庫で冷やしていたペットボトルをそのまま手で持って、頬に当てていただけたら手のひらと頬を一度に冷やせるので効果的です。甲子園でも冷えたペットボトルでからだを冷やす方法が導入されています。家の中であれば、洗面器に水を張って手をつけるだけでも効果があります。

 

手のひらをペットボトルで冷やす
冷蔵庫で冷やしたペットボトルを握るだけで手のひらを冷却できる

ただし、凍ったものに直接触れたりすると、血管が収縮して血液の流れが悪くなってしまいますので、逆効果になることがあります。体の深部に冷たい血液が流れるようにすることが目的ですので、冷たすぎるのはよくありません。クーラーボックスに水が入った冷たいペットボトルを用意するか、凍ったペットボトルしかない場合は、直接肌に当たらないようタオルを巻くのがいいと思います。ハーフタイムなど運動の合間などに行うと、体温が効率よく下がってその後の運動がラクに行えるようになります。

 

── ハンディファンや冷感グッズなどが多く売られていて利用している方も多いですが、これらは熱中症予防に効果はありますか。

 

長谷川さん:丸でもバツでもなく、三角ですね。こういったアイテムを単独で使うだけでは深部の体温まで下げる効果はありません。ハンディファンを顔に当て続けていると、汗を乾かしすぎて、のどの渇きを止めてしまうことがあります。のどの渇きが止まると水分の摂取量が減り、知らず知らずのうちに脱水しているケースがあります。熱中症対策という観点では、少し汗ばんでいるぐらいのほうが熱は放散されやすので、水分補給と組み合わせて使っていただけたらと思います 。