夕飯がいらないことは必ず伝える
── 相手の過去をすべて知りたいという方もたしかにいますね。
清水さん:相手の携帯から何から全部見たいってやつもいるじゃない。あれはよくないよね。うちは夜遅く帰ってきても「何してたの?」なんて聞かれなかった。でも帰ったら「ここで話が盛り上がっちゃって、遅くなった」とか報告はするよ。もし、事前に遅くなることがわかっていたら朝出かけるときに、「お母さん行ってくるね、今日は遅くなる」ということと、夕飯がいるかいらないかは必ず伝える。夕飯いるって言ったのに、途中でいらなくなったら、わかった時点で「夕飯いらなくなったからいいよ」って必ず電話するよ。

── そのひと言、ありがたいですね。せっかく食事を作ったのにいらないとなるとがっかりします。
清水さん:礼儀として最低限、必要なことは伝えて、あとはあんまり相手に関心がないのも結婚生活を長く続けるうえでいいのかもしれないね。うちは俺が働いて、妻は専業主婦でやってきたけど、今の人たちは家事も育児も夫婦で一緒にやっていて本当にすごいと思う。身近にも、子どもを保育園に送ってから仕事に行って、お迎えも行って家のこともして、って人がいるけど、俺にはできないな。大変そうだなって思っちゃう。
俺は「ただいま」って帰ってきたら、妻に家にいてほしかった。日中、家で何をしててもいいんだ。帰ってから「今日は何してた?」って聞いて、「疲れて横になってた」「家で映画観てた」って、たわいない話を聞くのがおもしろいんだよ。昨日は妻から「ちょっとこんなこと言う必要もないんだけどさ、背中掻いてくれない?」と頼まれて、「はいよ」って掻いてあげた。夫婦って、そんなやりとりをしながら過ごすのがいいと思うんだよね。
── おふたりのやりとりから、仲睦まじい様子が伝わってきます。
清水さん:俺は毎日のように「今日もきれいだね」って妻に言ってるんだけど、反応はまるでないよ。結婚して47年も経つのに「好きだ」って言われたこと、一度もないんだよね。いや、結婚する前から一度もないね。孫には毎回言わせてるんだけどね。「じいじ、しゅきです」って。俺が死ぬときに妻からその言葉が聞けたら幸せかなぁって思ってるよ。
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還暦を機に、「故郷の長野で暮らしたい」と妻と離れて暮らすことを決めた清水さん。念願の田舎暮らしもわずか1年で終えることとなり、「ひとりは何もするのもつまらない」と、夫婦で暮らすありがたみを改めて感じたそう。「やってみてようやくわかった」と後悔はしていないそうですが、今はもう2度と「ひとりではどこにも行かない」と誓っているそうです。
取材・文/内橋明日香 写真提供/清水エイジェンシー