ビリヤニって知っていますか?インドでは絶大な人気を誇る料理で、言うならば「スパイスの炊き込みごはん」。そのおいしさにハマり、人生をビリヤニに捧げている人がいます。それが、ビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』店主の大澤孝将さん。その原点は幼いころ自分で作った「味つけごはん」だったそうです。(全2回中の1回)

原点は自分で作った「中華だしの混ぜごはん」

── 大学生のころ、インドを訪れたときに食べたビリヤニが衝撃のおいしさだったとか。そこからハマって、お店を開くまでになったそうですね。ここまで深くハマった理由はなんだったのでしょうか。

 

ビリヤニ
ビリヤニはインドでは主流のバスマティライスを使った「スパイスの炊き込みごはん」

大澤さん:子どものころから味がついたご飯が好きだったんです。僕が遅くできた子どもだったせいか、特に母は僕にいろいろ食べさせたい、というタイプで。おかずが常時十数品、食卓に並んでいるような家でした。でも、僕としては米が食べたかった。それで、 ひとりのときにご飯に味つけして食べることにハマりました。

 

特に気に入っていたのが、中華だし。あれをご飯に混ぜて食べると、インスタントのチャーハンみたいになるんです。めんつゆにハマった時期もありました。おばあさんもご飯にしょうゆをかけて食べていたから、長野ではわりと一般的なのかもしれません。肉や魚が手に入りにくい地域だけど、米はある、みたいな。

 

── それぞれ、ご飯の食べ方にこだわりがあるんですね。

 

大澤さん:高校に入学してからは、実家から遠かったのでひとり暮らしをしていました。食事だけ寮で食べていたんですが、食べる量がさらに増えましたね。毎食4合は食べていたと思います。

 

── ひとりで4合はすごいですね!フードファイターレベル。

 

大澤さん:4合食べないとお腹いっぱいにならなかったんです。おかずの量は決まっているけどご飯はおかわり自由だったから、どうにかしてたくさん食べようっていうので、ノンオイル中華ドレッシングをかけて食べる技を編み出しました。切るように混ぜると酢飯みたいに食べやすくて、それを2合は食べていたかもしれません。今じゃ無理ですけど。

 

── そのころから、料理の道を考えたりも?

 

大澤さん:それはなかったです。趣味っていうか、ただただ作りたい。食べたいだけという感じでした。仕送りはしてもらっていたけれど、携帯代やら自作パソコンの材料やらに使っちゃって、お金もないから外食ができない。お腹いっぱい食べたいのに食べられない。そんな状況のせいで、食へのこだわりというか、食に対する想いがめちゃくちゃ強くなった気がします。

止まらない食への渇望「1日3食チャーハンを作って食べ」

── 大学生になってからもその状態は続いたのでしょうか?

 

大澤さん:大学進学で神奈川に引っ越したんですが、相変わらずお金がなかったので、お米をいかにおいしく食べるかってことで今度はチャーハンに凝り出しました。1日3食1週間チャーハン、みたいなときもありましたね。

 

── 1度ハマるとものすごく突き詰めるタイプなんですね。

 

大澤さん:それはもう昔からです。ハマり出しちゃうと、食材も全部仕込んで毎回少しずつレシピを変えたりして、いちばんおいしいチャーハンはどんな材料の比率で、どのタイミングで調味料を入れると実現するのか、1日3食、1週間ずっと研究しつづけるという。

 

── 究極のチャーハンのゴールは見えたんでしょうか?

 

大澤さん:ある程度は見えましたけど、チャーハンの世界ってゴールがないんですよね。それが悔しかった。当時、僕は経営学部で簿記を学んでいたのですが、簿記は絶対に答えが出るんですよ。最後会計が合うのが簿記なので。だから、簿記は好きでしたね。AもあるしBもあるよね、みたいなのが嫌いなんです。

 

── 完全に理系ですよね。

 

大澤さん:理系も理系で、完璧に答えがあるものが好きでした。だからチャーハンを突き詰めていこうとしたけど、ひとつの答えが出ない。中国にはチャーハン専門店があって、そこのもおいしいんだけど究極にはやっぱりならないんです。

 

── でもビリヤニなら、究極の答えが出る、ということでしょうか?

 

大澤さん:ビリヤニは答えが出ると思っています。もちろんおいしいビリヤニはいくらでもあるんですけど。だってご飯とお肉とスパイスですから。おいしくならないわけがないんです。

 

カレーで米を炊いたものがビリヤニっていう認識の方もいるかもしれませんが、正確にはスパイスでご飯を蒸したもの。その作り方の過程で、カレーよりもっとおいしくなる。食材と食材を組み合わせて加工するともっとおいしくなるというところを突き詰めていけば、最後はひとつのゴールに向かうと思います。