「精神力でどうにかなるだろう」は甘かった

── 帰宅後も、違和感が続いていたそうですね。

 

川合さん:そうなんです。家に戻っても、なんだか心がザワザワして落ち着かない。ふとテレビをつけたら、事故で子どもが重体というニュースが流れていたんです。ふだんなら「ああ、かわいそうだな」で終わるのに、そのときはそうじゃなかった。なぜか「生きてるのか!? どこの病院にいるんだろう?」と、異常なほど心配になって。電話しなくちゃ、とまで考えたんです。まったく知らない子どものニュースなのに、そこまで思い詰めてしまう自分が不思議でした。

 

そのいっぽうで、「知らない子の入院先を尋ねるなんておかしいだろ」と、冷静な自分もいて、「なんでこんなふうに感じるんだろう」と自分でもとまどいました。クイズ番組を見ていたときも、知らない漢字が出てくると、すごく焦りを感じたんです。ふだんなら別にそんなこと気にならないのに、妙に追い詰められて胸が苦しい。「さすがにこれはふつうじゃない」と感じ、気分を落ち着ける作用がある市販の薬を飲んで、少し楽になりました。

 

しかし翌朝、目が覚めたら、部屋がグワッと迫ってくるような不快感があって「これはもうダメだ」と思い、病院に行ったんです。診断は「パニック障害」。薬を処方してもらって治療を始め、回復までには2か月半ほどかかりました。

 

川合俊一が所有する防犯グッズ
防犯グッズマニアでもある川合さんの自宅にはたくさんの防犯グッズが。警棒だけでも数種類も

── つらい思いをされたのですね。その後、精神的な影響はどうでしたか?

 

川合さん:正直、ずっとスポーツをやってきて、つらい練習に耐えてきた自負があるので、「精神力でどうにかなるだろう」と思っていたところがありました。でも、途中で一度、薬をやめたら、とたんに何もやる気が起きなくなってしまって。何も食べたくないし、動く気にもならない。うつ病と診断されたわけではありませんが、あのときは本当に何もできず、ただ時間が過ぎるのを待つしかありませんでした。うつ病の症状と重なる部分があると知り、そのつらさを少し理解できた気がします。

 

いまはそうした症状はなくなりましたが、お守り代わりに薬を持ち歩いています。航空機に乗るときも、「大丈夫」と自分に言い聞かせてから乗るように。小さい航空機は避けて、なるべく広いスペースのあるビジネスクラスを利用するようにしています。エコノミーに座ると、またあの恐怖感がよみがえってきてしまうんですよね。知らない方から見たら「アイツはエコノミーには乗らず、贅沢だ」と勘違いされそうですけれど、そうじゃない。乗りたくても乗れないんです。