営業職として働き、週末は友人と遊ぶ日常を送っていた高久瞳さん(42)。それは、「兄にあのときカヌーに誘われていなければ」続く未来でした。しかし、そこで人生は一変します。「川とカヌーがあればいい」生き方を歩む彼女の笑みは、とても穏やかで、凛としていました。(全3回中の1回)

「ふつうの人生を歩む」と思っていたときに出合ったカヌー

OL時代の高久瞳さん
OL時代の落ち着いた高久瞳さん

── フリースタイルカヤックを始めたきっかけを教えてください。

 

高久さん:2004年の社会人1年目の夏、社会人のアウトドアサークルに所属していた兄に「おもしろいから一緒にやろう」と、誘われたのがきっかけです。軽い気持ちで行ったのですが、雄大な自然に囲まれ、 川の流れを間近に感じられて最高に気持ちよかったです。

 

サークルでは、カヌーの競技のひとつ「フリースタイルカヤック」に取り組んでいる人がいました。フリースタイルカヤックとは、川の流れのなかでカヌーに乗り、水車のように回転させたり、宙返りしたりして技の難易度を競う競技です。アクロバティックな演技をする姿に一瞬で心を奪われました。「私が求めていたのはこれだ!人生をかけて取り組みたい!」と心の底から思って。興奮して、その場で「フリースタイルカヤックを始めたいです」と言ったら、中古の道具を譲っていただけました。カヌーの中にはさまざまな競技があるのですが、私にとっては「カヌー=フリースタイルカヤック」なんです。

 

── フリースタイルカヤックにひと目ぼれだったのですね。もともと好きになったら一直線なタイプだったのでしょうか?

 

高久さん:まったく違います。それまでは、とくに夢中になるものはありませんでした。当時の私は、営業職として働く会社員でした。おぼろげな人生設計として「この先ずっと同じ会社で働いて、ごくふつうの人生を歩むんだろう」というイメージがありました。それが、すべてをカヌーに捧げるようになったんです。人生って何が起こるのかわからないです。

カヌーに一直線「友人とも遊ぶこともなくなって」

── カヌーを始めてからは、どのような生活を送っていたのですか?

 

高久さん:週末はずっと川に行く生活でした。道具を一式持ち運ばないといけないので、車で移動する必要があります。そのころの私は車を持っていなかったため、知り合いにお願いして連れて行ってもらいました。休日はいつもカヌーに乗りたかったのですが、一緒に行く人の都合が悪いと川に行けなくて…。もちろん、それはしかたがないことですが、なんとかできないかと思っていると、年間130日ほど川に行く人を紹介してもらえたんです。その人に頼みこんで、道具を預かってもらいました。そこから休日はその人と一緒に、雨の日も雪の日も川に通う生活が始まります。

 

カヌーに乗る高久瞳さん
カヌーに乗っていると、時間を忘れるほど夢中に

カヌーに出合ってから生活がガラリと変わりました。以前だったら平日は会社員、週末は友人と会って遊ぶ生活を送っていました。それが友人とも連絡を取らなくなり、親戚の集まりにも冠婚葬祭くらいしか行かなくなりました。私がカヌーにのめりこむ姿に、周囲はびっくりしていました。家族も「どうしちゃったの?」という感じだったかもしれません。でも、私がどっぷりハマっていて、誰も口出しできなかったと思います(笑)。