料理研究家として活躍の幅を広げている枝元なほみさん。2019年に病気を患って考えたことや、現在も続いているという症状とのつきあいについて伺いました。

生死の柵が低く感じて

── 体調が良くない日が続いていたと伺いました。

 

枝元さん:2019年、コロナ禍の少し前に間質性肺炎だと診断されて。なぜなるのか、どうしたら治るかもわからない病気だと言われました。気をつけていたのですが、今年のお正月にコロナにかかってそれが悪化しちゃって、今はこんなふうに酸素吸入も必要になりました。ダースベーダーみたいでしょう(笑)。今年の1月、2月は「もしかしたら私、死ぬかな」って思っていたときもありました。

 

枝元なほみさん
月に1回開かれる「夜パンB&Bカフェ」でにこやかに接客する枝元さん。エプロン姿がやっぱりお似合い

── どういった症状があったのですか。

 

枝元さん:そのときはコロナでよく言われる高熱などの激烈な症状はなくて、ただ弱っていく感じ。家にずっといて、寝ていました。「私、このままヒュっていなくなっちゃうのかな」って思ったり。死ぬ、生きるという柵が低いように感じていました。でもあんまり怖くなくて、人の命ってどうなるかわからないものだなぁ、なんて思ったりもしていました。

 

── 入院もされたそうですね。

 

枝元さん:姪っ子が医者で、病院に送り込んでくれました。妹がついてくれて、1か月入院して助かった感じです。今もまだ息苦しかったり、力が出なかったりする日もあります。肺炎が一気に悪化しちゃったせいですが、コロナの後遺症の症状もあるみたいですね。

 

不思議なんだけど、なぜか退院してからのほうが怖かった。家にひとりでいて、「このまま治らなかったらどうしよう」って思うと怖くて。病気するとどうしても悲観的になってしまうから、今はゆっくりマイペースで楽しいことを見つけるようにしたいなと思っています。

 

── 日常で気をつけていることはありますか。

 

枝元さん:どうしたら治るかわからないから、料理リハビリで、体にいいものを作って食べようと思っています。私、病院にもここ30年近く行ってなかったし、なんの薬も飲んでなかったの。薬局で売っている薬ですら口にしてこなかった。

 

だから感覚として、体に入ってきたときに「お、これはいいかも」とか、「これはうまい!」と感じるものを食べる。そうするとなんだかすごく効いている感じがするんですよ。「玄米美味しく感じるなぁ」とか、「牛乳は飲めないけれどオーツミルクは美味しいな」とか。

 

枝元なほみさん考案のメニュー
カフェで提供するメニューは枝元さんがレシピを考えている

でもこの間は病院の帰りにデパ地下に行ってね。「へっへっへ、今日はランチに天丼弁当買っちゃったもんね〜!」なんてときもあるよ。なんでも厳しくすると疲れちゃうから、嬉しい、楽しいと思えることをして過ごしたい。

 

今は物事のペースをすごく緩めています。あれもこれもたくさんしなきゃと思うとしんどいよね。仕事って自分でやろうと思うことと、相手からオーダーが来てすることではちょっと違うよね。

 

病気をしたのもあるし、元々の性格もあるけど、人と比べてしまうとどんどんしんどくなるから「ま、しょうがない」と思って生きるようにしたら、今ではお休みの日が大好きになっちゃった(笑)。

 

枝元なほみさん
トークショーで笑顔を見せる枝元さん

── ずっとお忙しく働かれていましたもんね。

 

枝元さん:何にもない日にね、「今日は何しようかな〜?」と考えるのがすごく嬉しいの。いろんな人を見て思うのは、自分のアイディンティを仕事の中心に考えるとつらくなっちゃうんじゃないかしら。でも、一回そういうのが落ちてなくなると、すっごくいいよ。みんなにも「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ」って伝えたいなと思っています。

捨てないと「お得」

── ご自宅ではいろいろなことをされているそうですね。

 

枝元さん:石を集めたり葉っぱを集めるたりするのも好きなんだけど、ニンジンや野菜の頭を水につけて育てると楽しいんです。脇芽が出てきたり葉っぱが出てきたりすると「可愛いな〜」って。葉っぱも煮てみたらどうなるかな?とかね。

 

料理の仕事をしていて、みんなに「こうしたら美味しいよ」と言っているのに裏でバンバン捨てていたら地獄に落ちるなと思ったんです。仕事で使った材料も調理して人に持ち帰ってもらったり、私も持って帰ってきていろいろ実験していました。

 

元々、お金がないから捨てなかったの。料理を始める前は貧乏な役者だったからさ、お金がなくて必死だったし、捨てそうなものでも、使えるものはすべて使いきろうと思っていました。

 

町のパン店で売れ残ってしまうパンを引き取って販売し、フードロスの削減に寄与する「夜パン」はカフェでも人気のコーナー

でもきっとみんな食べ物は大事だとわかっているし、「絶対捨てちゃダメ」と思うと苦しくなっちゃうから、「こうするとお得かも!?」と考えると楽しいんじゃないかしら。あまりにもきっちりしすぎると息切れしちゃうし、いい人にならなきゃいけないじゃない。「これをしてみたらお得でした〜!」と思うくらいがいいなって。

 

── 丁寧な暮らしにも繋がりそうですね。日々に忙殺されていると忘れてしまいそうです。

 

枝元さん:それは私もそうでした。若いときには「これをしたいけど忙しくて、本当は寝たいのに〜」とかね。今こうしてお仕事もセーブするようになってから見えてきたことでもあります。

 

でも、今すぐはできなくても気持ちだけは丁寧に折りたたんでしまっておいてほしいな。心の中で大きくなって熟成していくからね。今すぐできる、できないで決めつけてしまうのではなく、日常でいいなと感じることを見つけたら、そっとしまっておいてほしい。

 

人生のステージ、ステージでそれぞれ向き合うことって違うから、今感じることを大事にして、日々に向き合って。できるときが来たらするのもいいなと思います。

 

PROFILE 枝元なほみさん

1955年生まれ。料理研究家としてテレビ、雑誌で幅広く活躍。NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、一般社団法人「チームむかご」代表。書著に『捨てない未来―キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』ほか。

取材・文/内橋明日香 写真/浅野カズヤ、北原千恵美