ただ販売して売れればいいわけじゃない

「ふたごじてんしゃ」を普及させるため、中原さんは何度も試乗会を行ってきました。

 

双子や年子の子どもを持つママのなかには、「この自転車があれば、公園にも病院にも行ける」と喜ぶ人たちも少なくありません。

 

以前の自分と同じように、子連れでの移動に不安があったり困っている人たちが多かったりするのを目の当たりにしました。

 

雨の日も濡れないように専用のレインカバーも開発

とはいえ、2000人以上の話を聞くなかで、「この人に販売して大丈夫かな?」と気になることもあったそうです。

 

「『ふたごじてんしゃ』の特性を理解されておらず、二輪自転車の感覚でいる親御さんがいたからです。

 

三輪だからといって絶対安全ではないし、万能でもありません。スピードを出すと転倒しやすく、坂道やデコボコ道は運転しにくいなどの弱点もあります。

 

また、道路交通法の規則内ではあるものの、二輪自転車よりは幅があるため特別な駐輪スペースも必要です。

 

ところが、この自転車を求める方たちの話をよく聞くと、坂の上に住んでいる人や自宅に駐輪スペースがとれない人もいました。

 

だから、どう考えてもムリだと思う人には、“申し訳ないのですが、あなたの環境には適さないようです”と丁寧に伝える必要がありました」

 

「ふたごじてんしゃ」の平均時速の目安も具体的な数値を出して説明

ときには電卓を叩いて購入した場合にかかる費用を説明し、タクシーを利用したほうがコストパフォーマンスがいいと、他の外出手段に目を向けてもらうことも。

 

こうしたことを繰り返すうちに、中原さんはユーザーに満足してもらうためには、「ふたごじてんしゃ」を量産すればいいわけではないと気づき始めました。

 

「もし、販売店に『ふたごじてんしゃ』が並んだ場合、誰もデメリットを説明してくれません。返品が増えると販売店からも嫌がられます。

 

以前、大人用の三輪自転車は思ったよりもスピードが出ない、大きくて駐輪場に入らないなどの理由から、半分以上が返品されたと店主から教えられたことがあります。

 

本当に必要としている人に届けるためには、販売前に使用上の注意やこの自転車のコンセプトや特徴などを理解してもらう必要があるのでは?と考えるようになったのです」