他者理解がイノベーションや優秀な人材確保につながる

「ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」での社外トレーニングの様子

 

──男性が多い職場で働く女性の気持ちは、男性にとっては当事者の立場に置かれてみないと理解しにくいかもしれませんね。

 

今瀬さん:

そうですね。理解する気がないのではなく、想像ができないというケースが多い気がします。

 

他にも経営層と社員の間で温度差があったり、各企業の持つ文化や文化の浸透度など、多様性について理解度の深さは異なります。文化を社内に根付かせるには、時間がかかるのです。ただ講義を聞くだけの形式ではなかなか理解しづらいので、私たちのトレーニングではケーススタディやディスカッションを通してお互いに考え、話し合うことに重点を置いています。大人数ではとてもできないので、必然的に少人数で頻繁に開催することになります。また意識していないとすぐに忘れてしまうので、トレーニングを継続して行うことも大切ですね。

 

──「これからダイバーシティ&インクルージョンを始めます」という段階の企業も多いと思うのですが、そうした企業はまず何から始めればいいですか?

 

今瀬さん:

まずは何を重視するかを決めることだと思います。例えばP&GのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、2020年から「性別」「LGBTQ」「障害」の3つの柱を軸にしています。まず3つの柱それぞれのなかで大きな意味での“違い”を理解し、その後で個々人の“違い”へと理解を深めていくことを目的としています。

 

ジェンダーについて知識を深めている人でも、LGBTQや障害のある人については周囲にいなくて理解していない、何をしたらいいのか分からないという人もいます。知らないことが一番の問題なので、意外と概念を知れば理解してスムーズにいくことも多いです。

 

──他者への想像力が必要になってくるのですね。自分にはない属性を持つ他者を理解することはとても難しいですが、どのように理解を促しているのでしょうか?

 

今瀬さん:

知らない視点から見ていくことは、アンメットニーズ(まだ見えていない潜在的欲求)のイノベーションにつながります。例えば日本で暮らしていると玄関で靴を脱ぐことは当たり前ですが、文化の違う海外の人に聞いてみると「玄関に何足も脱いだ靴を置いておくなんて臭い!」という見方になるんです。そういった視点を知ると「玄関の臭いが気になるなら、靴箱用の消臭剤に需要があるかも」と思い付くことができます。

 

特に私たちは日用品を扱うので、「コンシューマー・イズ・ボス」という考えのもと、消費者理解をとても大切に考えています。違いを受け入れて多様な消費者を知ることは、仕事にも活かすことができるのです。

 

──靴箱の事例は、すごく分かりやすいです!他者を理解することが、ひいてはビジネスにもつながるんですね。

 

今瀬さん:

その通りです。「ダイバーシティって必要なの?」と懐疑的になる人もいますが、このケーススタディを話すと違いを受け入れて活かすことに納得いただくことが多いですね。

 

ダイバーシティ&インクルージョンはすぐに効果が出るものでもないですし、直接事業の利益には結びつきません。一方で、最近の若い人たちはこうした領域への関心があります。誰にとっても働きやすい環境を整備することが優秀な人材確保につながるなど、長い目で見れば多方面に活かせると思います。

 

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