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「夕方に帰宅したことで、初めてお客さまの気持ちになれた」なりキリンで生まれた変化

仕事

2020.03.27

2020.06.10

共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。今回は子育て世代の社員への理解を深めるために面白い研修を行っているキリンホールディングス株式会社を取材しました。

 

ママ社員の働き方を疑似体験!?キリンの『なりキリン ママ・パパ研修』とは?」では、なりキリン ママ・パパ研修の設立背景や具体的な研修内容について、運営に携わる3人の方にお話を伺いました。

 

今回は、なりキリンママ・パパ研修の社外への提供や、なりキリン研修を体験したことで気付いたことを振り返ります。

 

多くの場合、研修に参加して新しい知見を得ても、時間が経過するにつれてその効果は薄れてきてしまうものです。しかし、なりキリンママ・パパ研修は、研修終了後も生産性の向上や、業務の充実など、継続して効果が出ているんだとか。

 

どうして、なりキリンママ・パパ研修はただの体験で終わらないのか…その秘密を3人の経験を通して探っていきたいと思います。

「なりキリン」で進んだ業務の見える化

豊福さん(キリンホールディングス):

なりキリンママ・パパ研修が社内に浸透することで、実際に働く時間に制約を抱えている社員も自分の状況をオープンにしやすくなりました。

 

どんなに会社として「働く時間に制約がある社員をサポートしたい」という考えがあっても、社員のプライベートな事情が分かっていないと、配慮ができないんですね。

 

キリンホールディングス株式会社の人事総務部多様性推進室人事担当の豊福美咲さん。2008年入社後、工場総務、グループ会社での人事部門を経て、なりキリン事務局を含む多様性推進業務を担当する。自身も二児の母。

 

実際、いつも9時過ぎに出社している社員が「実は毎日保育園に送りに行っていて……」、逆に早退しがちな社員が「今、介護を頑張っていて」など、自分の状況を言いやすい空気や個人的な事情を理解しやすい風土が生まれたと思います。

 

あとは、社員のご家族の反応も良かったですね。普段ゴミ捨てをしているから自分は家事を分担していると考えていた男性社員の意識が「お手伝い」から「分担」に変わって、今では食事も作るようになったとも聞きました。

 

「毎日子どもを寝かしつけているママはすごいね、いつもありがとう」と感謝したという男性社員もいるようです。

 

なりキリン中の社員を見て、自分の家庭でも実際に思うところがあったのだと思います。

 

「ママであること」や「自分の大事にしているもの」を表現する「Hugマーク」のステッカー。パソコンや名刺に貼っている人も多い。

 

金田さん(キリンホールディングス):

女性社員だけでなく、男性社員にも影響は大きかったですね。

 

飲食店への卸を担当していたある男性社員は、業務内容を見直して仕事とプライベートの両立に舵を切りました。

 

キリンホールディングス株式会社の人事総務部人事担当の金田亜弥香さん。営業職などを経て、現在はなりキリン研修の立ち上げ兼経験者として、なりキリン事務局を含む多様性推進業務を担当する。

 

それまでは仕事を優先することが多く、子どもの入園式にも出られないほど仕事に打ち込んでいたのですが、当たり前だと思っていた卸先の店の夜の訪問の代わりに、ランチの時間帯に行くことにしたそうです。

 

その結果、得意先との関係を築きつつも、家族との時間も確保できるようになったんだとか。下の子の入園式には参加することができたと笑顔で話していました。

 

豊福さん(キリンホールディングス):

営業部門だけでなく、工場でもなりキリンママ・パパによって変化が出てきています。

 

多くの仕事の中で、熟練の技術者や経験の長い社員にしか分からないということもあります。しかし、技術者や社員が、なりキリンに参加したことをきっかけに、業務の見える化が行われ、メンバーの誰でもが対応できる体制を整えることができました。

 

また、今までは機械の簡単な修理でも、勤務歴の長い人に毎回手順を聞いていたためトラブル対処に時間がかかっていました。そのため、ベテランの人ほど時間外の作業が発生していたんです。

 

なりキリンをきっかけに業務を分別して見える化することで、他の人の時間を奪うということに敏感になり、「この仕事は明日でも大丈夫」など業務の優先順位をつけることができたということもあったようです。

これも大きな変化のひとつですね。

 

──通常だと、研修直後は意識が高まっても、研修が終われば徐々に効果が薄まっていくことも多いです。でもなりキリン研修後も社内に変化が生まれたのは、とても興味深いですね。

 

 

キリンホールディングス株式会社の人事総務部人事担当の仮屋芙由実さん。2019年に社外からの出向により、なりキリン事務局を含む多様性推進業務に従事する。

なりキリン研修は効果が認められ、社外にも展開

仮屋さん(キリンホールディングス):

なりキリンママ・パパ研修は労働生産性向上や多様性推進の観点から非常に優れた内容ということが認められて、キリングループだけでなく現在では社外展開も行っています。

 

私が関わっている神戸市役所では、なりキリン研修をベースにした研修プログラム「KOBE TIME TRIAL~育児編~」を導入しました。

 

市役所では、職員が活き活きと働くことで仕事の質を高め、市民サービスの向上につなげたいと考えています。そこで、なりキリン研修をベースに、職員が働き方を見直す機会を設けたんです。

 

取り組んでみると残業時間の削減やコミュニケーションの活性化も見られ、職員自身も自分の働き方を見直すきっかけになったと思います。

 

──時間には限りがあるので、働き続けていくためには自分の仕事のやり方を見直すことも必要となってきますね。お話を伺っているととても良い循環サイクルが生まれているようです。

 

仮屋さん(キリンホールディングス):

今では誰もが知っている「働き方改革」に先駆けて、私たちはなりキリン研修に取り組んできました。

 

会社全体での総労働時間が減っていくことは、会社にとっても社員の健康を守る、多様性ある社員に活躍の機会を与えられるなど、あらゆる面でプラスになります。

 

だからこそ、研修に参加してそれで終わり、にならないようにしたいと思っています。

 

なりキリン研修中は仕事を効率化して、労働時間を減らすことができていたのに、研修終了後は元どおり長時間残業をする、というようなことがあっては研修の意味がありません。

 

なりキリン研修を通して感じたことや、仕事に対する向き合い方を、研修終了後も継続できるようにしていかなくてはいけません。

夕方に買物する主婦の気持ちが初めて理解できた

──なりキリン研修の考え方が広まれば、営業女子以外でも全ての人が働きやすい社会になっていきそうです。金田さんは当初は自身のキャリア設計に漠然と不安を抱えていたそうですが、実際になりキリン研修を体験されてみて気付いたことはありましたか?

 

金田さん(キリンホールディングス):

自分の中で「ママになっても、意外と営業って続けられるんだな」と手ごたえを感じました。

 

それまでは、もし自分がママになって働く時間に制約ができたら、「営業職として働き続けるのは難しいのではないか」という漠然とした思いがあったんです。

 

でも、なりキリン研修に参加することで、どんな生活になるのかが具体的に分かり、前向きにキャリアが描けるようになりました。

 

相手ありきで動かなくてはいけない営業職であっても、取引先とのやり取りも含めて効率よくスケジュールを組めば、子どもができても働き続けられるんだと確信を持てたことが、私のなかでは大きな変化でしたね。

 

 

──子どもが生まれることでどんなふうに生活が変わるのか具体的に体験できるからこそ、前向きに自分のキャリアを考えられるんですね。

 

金田さん(キリンホールディングス):

あとは、自分がどれだけ仕事に時間を割いていたのかを痛感しました。なりキリン研修中は、保育園お迎えの設定時間になると本当に自宅に帰るので、いわゆる主婦の方が夕食を買いに行く夕方の時間帯のスーパーに行くことができたんです。

 

恥ずかしながら、それまで私はスーパーには商談の時間帯に行っていました。しかも、仕事で行っているので、自社商品が並ぶ棚しか見えていなかったんです。

 

もちろん、プライベートでも近所のスーパーには寄りますが、仕事帰りに立ち寄ることが多かったので、スーパーが一番混雑しているピークタイムは既に過ぎていることがほとんど。お客さまのリアルな生活を知りませんでした。

 

でも、夕食の買物をしているお客さまで混雑している時間帯のスーパーに行けたことで、自社商品がお客さまに買われる瞬間や、スーパー全体の中で自社製品がどんな商品展開をされているのかを、初めて客観的に見られた気がします。

 

──確かに社会人として生活していると、平日の夕方、レジに長蛇の列ができている光景にはなかなか立ち会えないかも知れません。

 

金田さん(キリンホールディングス):

本当にその通りで…。

 

自宅に帰った後も、自社商品のテレビCMをお客さまの視点で見られました。

子どもを持つママのタイムスケジュールで動いてみて初めて、「このCMを見ているとき、お客さまは子どもの寝かしつけを終えてほっと一息ついたタイミングなんだ…」と具体的に想像することができたんです。

 

それまでの私は消費者の視点が抜け落ちていて、本当に商品を届けたい客層が見えていなかったんですね。

 

なりキリン研修はママ・パパの生活を擬似体験できるだけでなく、自分のこれまでの働き方を見直すきっかけにもなりました。

 

当時はたった5人で始めた研修ですが、全社としてこの研修を進めることができ、社外にも展開することができて本当に良かったと思っています。周りを巻き込み、味方を作っていくことで、実現した取り組みです。

働き方を見直す一つの施策として、今後もなりキリンママ・パパ研修を社内外に展開していきたいですね。

 

今やキリンホールディングスの社内だけでなく、社外にも広がりつつある「なりキリンママ・パパ研修」。

 

リアルなシチュエーションで擬似体験ができるからこそ、「子どもができたらキャリアを諦めなければいけない」「親の介護をするなら仕事を離れなければいけない」という漠然とした不安を取り除くことができます。

 

働き方を変えようとしても、実際に経験してみなければ理解できないことは少なくありません。リアルな体験を通して、働く本人も、その周りの人も働き方を見直すきっかけとなるのが、この「なりキリンママ・パパ研修」だと言えるでしょう。

 

取材・文/秋元沙織 撮影/中村彩子 取材協力/キリンホールディングス株式会社

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