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ママ社員の働き方を疑似体験!?キリンの「なりキリン ママ・パパ研修」とは?

仕事

2020.03.24

2020.06.10

 

共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。今回は子育て世代の社員への理解を深めるために面白い研修を行っているキリンホールディングス株式会社を取材しました。

 

キリングループが行う「なりキリン ママ・パパ研修」はとってもユニーク。ママ・パパ社員になりきって子どもの名前決めから始まり、研修参加者は1ヶ月間子どもがいる前提で通常業務にあたります。しかも、突発的に「お迎えコール」がかかり、仕事を強制的に終了して帰宅しなくてはいけないということも…。

 

他にはないリアルな設定の研修が話題となっています。

 

今回は「なりキリンママ・パパ研修」の立ち上げと現在の運用を担当している3人に、この取り組みの内容や設立背景を中心に伺いました。

リアルな設定で、ママ社員の働き方を疑似体験

──まず、「なりキリン ママ・パパ」ってすごくユニークなネーミングですよね。そもそもの設立背景から教えてください。

 

金田さん(キリンホールディングス):

私を含めて当時子どものいなかった5名の営業女性社員が、「ママになったら働き方はどうなるのだろう?」と考えたことがきっかけです。

 

元々キリングループは、新世代エイジョカレッジ(※)に参画しています。一般的に営業職の女性が入社10年間で9割辞めてしまう現状に対して、どうしたら営業職の女性=エイジョが働き続けていけるかを考えていく異業種間プロジェクトです。

 

その中で私たちのチームが「もし子どもがいて働く時間に制約があったら」と仮定したうえで1か月間実証実験を行った結果、2017年2月に開催された「EIJYO COLLEGE SUMMIT 2016」で大賞を受賞しました。働く時間に制約ができても労働生産性を向上させたことや、周囲へのマネジメント向上策が評価されたんです。

(※)新世代エイジョカレッジ……営業職の女性の9割が入社10年以内に現場を離れてしまう状況に対して、営業で女性が働き続けるために課題解決に向けた提言を行う異業種合同プロジェクト

 

今では育児中という設定以外に、介護とパートナーの病気という3つのシチュエーションを用意しています。

キリンホールディングス株式会社の人事総務部人事担当の金田亜弥香さん。営業部門などを経て、現在はなりキリン研修の立ち上げ兼経験者として、なりキリン事務局を含む多様性推進業務を担当する。

 

──子育ても介護も、誰にでも起こり得ることですが…具体的にはどんな内容なのでしょうか?

 

金田さん(キリンホールディングス):

研修の参加者は、まず初めに、育児、親の介護、パートナーの病気の3つのシチュエーションから自分がチャレンジするシチュエーションを選びます。

 

シチュエーションが決まったら、次の7つのルールが課された状態で1ヶ月過ごしてもらいます。

 

①基本NO残業

②フレックスや在宅勤務などの会社制度をフル活用する

③配偶者サポート制度・・・週1回は配偶者の力を借りて、残業や業務上必要な飲食ができる

④ベビーシッター制度・・・緊急事態の発生などでどうしても残業が発生してしまう場合、1時間単位でベビーシッターが利用できる

※自分の住んでいる地域のベビーシッター代を事前に調べて登録する

⑤突発的なお休み・・・保育園や病院などから突発的に連絡が入った場合は、仕事を休まなくてはいけない

⑥なりキリン宣言・・・ママ・パパ、介護中であることを周りに宣言する

⑦なりキリンレポート(必須)/なりキリン日記(任意)の提出

 

この7つのルールを徹底し、仕事との両立を図ってもらうことになります。

 

──どのシチュエーションを選んでも、非常にリアルな擬似体験ができるんですね!育児中というシチュエーションを選んだ場合、どのような過ごし方になるのでしょうか?

 

金田さん(キリンホールディングス):

リアルであるということは大事にしています。

 

例えば、育児では設定をよりリアルなものにするため、子どもの名前を事前登録してもらいます。仮想前提条件としては子どもの年齢は2歳前後、配偶者とは同居していて、実家サポートなしのフルタイム勤務という設定です。

 

なりキリン研修中は基本的にはノー残業ですが、例外として週1回は配偶者の力を借りられる「配偶者サポート制度」を利用して時間外の勤務が可能です。

 

研修参加者は、なりキリンママ・パパになっていることが周りに分かるよう、
デスクにメモやプレートを貼って「なりキリン宣言」をする。

 

他にも、なりキリン研修中は仮称の施設「キリン保育園」から突然電話がかかってきます。「○○ちゃん(設定した子どもの名前)が発熱したので、今すぐお迎えに来てください」と即時退社を促すものと、「○○ちゃんが病気になったので明日は終日休みにしてください」と翌日欠勤を告げるいずれかの指示が出されます。

 

電話はいつかかってくるか分からず、なりキリンママ・パパは電話の指示を断ることはできません。

 

1カ月の期間中は自分が「なりキリンママ・パパ」であることを周囲に宣言し、理解や協力を得ながら働くことが求められます。

 

なりキリン社員には、実際に体験してみての業務時短のコツや感想などを記録してもらい、研修終了後になりキリンレポートという形で提出してもらいます。

 

 

個人だけでなくチーム力も意識

──子どもの名前に、保育園からの「お迎えコール」まで再現!ルール設定がかなり本格的ですね。

 

金田さん(キリンホールディングス):

ルール設定をするに当たっては、働くママ社員にアンケートやヒアリングを行いました。例えばキリン保育園からの電話に関しては、子どもは体調を崩しやすく、突発的なお休みが生じがちという声が多く聞かれたので、連絡はいつ来るか分からない仕組みになっています。

 

個人ではなくチーム全体で取り組むことが求められるので、現在は部門長や場所長からの挙手制を採用しています。彼らにとっても、多様性のある社員をどうマネジメントしていくかを考えるきっかけとなっています。労働生産性向上はもちろんですが、周囲のサポートを含めた取り組みを通じて、組織力を上げていくことも狙っています。

 

──対象者ではなく部門長や場所長からというのは、何だか珍しい気がします。

 

金田さん(キリンホールディングス):

業務を効率化するには、チームで見直しを図る必要があります。リーダーやリーダー候補の人については、多様な状況にあるスタッフをどうマネジメントしていくかが求められます。時には業務の大幅な変更も求められるため、組織長の参加は必須です。

 

実際に、成果も出ているんです。

 

例えば、定例の朝早い時間でのミーティングは止めたり、1時間とっていた個人面談を30分に凝縮するなど、業務の効率化やそもそもの業務の見直しも行っています。その他、今までは個々で作成していた資料を共有化するなど、細かいことから簡略化していって残業を減らすことにも成功しました。

 

──素晴らしい成果ですね! でもそれだけの成果が出ると、どこかにしわ寄せが出るのでは…?参加者の声は、どういった反響がありましたか?

 

金田さん(キリンホールディングス):

さまざまですね。なりキリン研修を体験した社員からは「想像していたよりも働ける」という声もあれば「(ママ社員は)こんなにハードな生活を送っていたのか」という驚きの声も聞かれます。後はそれまで妻に育児をお任せしていた男性社員が、育児を自分事として捉えたという話も聞いています。

 

でも一番意外だったのは、他社からの反響です。 「さすがキリン、進んだことをやっているね」という関心を持たれたり、「実は私にも子どもがいてね…」と取引先とのプライベートな交流につながったり…。

 

仕事と育児の両立や介護の問題など、他社でも同じ課題を抱えているのだと実感しました。

 

 

キリンホールディングス株式会社の人事総務部多様性推進室人事担当の豊福美咲さん。工場総務、グループ会社での人事部門を経て、なりキリン事務局を含む多様性推進業務を担当する。自身も二児の母。

──労働生産性向上の問題は注目されていますが、マネジメント層や取引先にまで理解を得て拡大されているケースは少ないかも知れませんね。豊福さんはご自身も子育て中だそうですが、制度が始まって何か感じた変化はありますか?

 

豊福さん(キリンホールディングス):

なりキリン研修が始まってからは、子どもが熱を出したと連絡が入ると「早く帰りなよ!」と周りから言われるようになりました。もちろん今までも頼めば早退できる雰囲気はありましたが、なりキリン研修のおかげでママ・パパ社員の抱えているプライベート事情への理解が浸透したのだと思います。

 

 

キリンホールディングス株式会社の人事総務部人事担当の仮屋芙由実さん。2019年に社外からの出向により、なりキリン事務局を含む多様性推進業務に従事する。

仮屋さん(キリンホールディングス):

なりキリン研修が始まってからは、本当のママ社員にも「早く帰っても大丈夫だよと、言ってあげなきゃ」という気持ちになったという声が挙がっていますよね。

 

豊福さん(キリンホールディングス):

実際、なりキリン研修の設定はかなりリアルだと思います。

「ベビーシッター制度」と言って、なりキリン期間中にもし止むを得ず早出や残業が発生する場合は、予め登録している在住地域のベビーシッター利用代金を元に、時間外業務にかかった時間と利用代金を記録します。地域の利用相場から何時間でいくらかを記録し、月間で合計どれくらいかかったのかも振り返るんです。

 

この制度も、実際にお金を払って我が子を預けた経験のあるママ社員の声からルールに組み込みました。「会社に働きに来ているはずなのに、どんどんお金が出ていく!」というリアルな気持ちも感じてもらっています。

※シッター代金は実際に集金をして研修後に返還するなど、各場所毎にルールを決めて運用

社員自身が工夫して「なりキリン宣言」

──ママ社員に起きることを、かなり忠実に再現しているんですね。他にも、効率良く働くためになりキリン社員自身が工夫していることはあるんですか?

 

金田さん(キリンホールディングス)

部署や工場によってそれぞれフォーマットがありますが、基本的にはその部署や担当者にお任せしています。なりキリン宣言として、メールの署名に「なりキリン中」と表記する、時間外のメールには自動返信設定で対応する、部署間でいつも外出予定を記入するホワイトボードに書いておくなど、独自にアレンジしている人もいますね。

 

仮屋さん(キリンホールディングス):

社内ポータルサイトのトップに、「今月は〇〇さんがなりキリン月間」と掲載している場所もありました。各場所で「もっとこうしたらいいんじゃないか」と、色々工夫しながらその場所場所に合うやり方をつくり上げてくれています。

 

 

「子どもが生まれたら自分たちの働き方はどうなるんだろう?」という若手女性社員の疑問から生まれた「なりキリンママ・パパ研修」。

 

育児や介護をしながら働くということを擬似体験することで、ママやパパの大変さを理解するだけでなく、業務の見直しや生産性の向上にも繋がっているようです。

 

取材・文/秋元沙織 撮影/中村彩子 取材協力/キリンホールディングス株式会社

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