「つらい」と思ってしまったら

 —— 前回、虐待が自殺リスクを高めるというお話がありましたが、忙しく、つい子どもにつらく当たってしまうときはどうしたいいのでしょうか。

 

末木さん:

今は体罰をよしと思っている親はまずいないのではないでしょうか。よくないということはわかっている、わかっているけどやってしまう…それが虐待なんです

 

体罰は悪い意味で効果的で、子どもの行動がすぐ変化します。自分が何らかのアクションを起こした後に、すぐ(その人にとってポジティブな)変化が起きるという状況は人間にとって非常に重要で、ある意味、中毒と同じような作用があります。そしてその時の感覚を覚えてしまい、また同じことを繰り返すことになってしまう。余裕がないとついやってしまう。そういう状態の人がいくら「よくないことだからやめなきゃ」と思っても簡単にはやめられません。

 

多くの場合、睡眠不足などで自分に余裕がなくなってくると特にの傾向が強まりがちです。早めに自分を休ませてあることが大切かもしれません。

 

—— ほかには何かありますか?

 

末木さん:

電話相談などは、電話の向こうの相手と一時的な関係を作って所属感を高め、危機的な状況をやり過ごすという意味では意義のあるものです。

 

ただ、それはあくまでも一時しのぎ。親しい人や専門家と語り合って、自分は何をつらいと思っているのかを解明していかないと、結局は同じことを繰り返してしまいます

 

自分がはまりこんでいるつらさの渦があるとしたら、できるだけその渦の上から俯瞰して、打開策を見出してくことが必要かなと思います。難しいことだとは思いますが

 

—— 確かに、難しいですね。自殺に短期的な予防策はないとも言われていましたが、まずはそういった渦に飲み込まれないよう日頃からメンタルを意識して整えることが大切ですね。

 

末木さん:

その通りです。幸福感を高めるような行動習慣を地道に作っておくことです。もちろん、そういった幸福感を一瞬でふき飛ばすような大変なことはいくらでも起こりえます。ですが、個人としてはまずはそういうことを心がけて生活していくこと。それが一番大切だと思っています。

 

 

小さな幸せを自分で作り出して、自分の人生満足度を上げていく。それが、大きな不幸に見舞われたとき心のバランスを崩さない備えになるのかもしれません。 

 

悩み・困りごとがあるときは…

まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

 

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PROFILE:末木新(すえき・はじめ)さん

和光大学現代人間学部 心理教育学科准教授。2012年、東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程修了、教育学博士。臨床心理学、自殺学を専門とする。論文「自殺系掲示板の持つ自殺予防効果の構造」は、「臨床心理学」誌の臨床心理学論文賞、第31回電気通信普及財団賞テレコム社会科学賞を受賞した。著書(単著)に『自殺学入門』(2020, 金剛出版)、『自殺対策の新しい形』(2019, ナカニシヤ出版)など。

文/鷺島 鈴香 イラスト/小幡彩貴