静かに描かれる壮大なストーリー
人間の目には映らないものの、誰もが一目で「ゴースト」と理解できる、古典的な姿でこの世にとどまる夫のC。愛する人を残して逝ってしまった、というだけの理由でさまよい続けているのでしょうか。
Cの本当の想いを知る鍵となるのは、タイムトリップとMの残したメモです。子供の頃から引っ越しが多かったMには、新居に移る際には、自分がそこにいた証として元の家にメモを残すという習慣がありました。Cと住んだ思い出の家をMが去って行く……。Cのいない世界で新たな人生を歩み始めるMが残したメモの中身とは、一体なんなのでしょうか。
ゴーストになった夫は、残された妻と会話もできないため、作品中のセリフがとても少ない。さらに、夫のCはシーツ姿なので、その顔を見ることもほとんどありません。静かに淡々と流れて行く時間の中で、亡くなった人と残された人の魂の行き先を見届ける……。ちょっと不思議な感覚になりますが、根底には「夫婦の愛」が描かれているラブストーリーではないでしょうか。
文/タナカシノブ