離婚して、仕事をしながら子どもを育てているというと、世間では「大変でしょう」「かわいそうに」と同情を買うことが多々あるようです。でも実際には、シングルになって楽になったという女性たちも多くいます。
「絵を描いてお金もらえるなんていいね」夫の暴言に妻は…
「子ども2人との3人暮らしは、本当に快適です!」、会うなり大きな笑顔でそう言ったのは、ユウミさん(39歳、仮名=以下同)です。28歳のとき5歳年上の夫と結婚、ふたりの子をもうけましたが、3年前に離婚しました。
「夫はチクチクとモラハラを繰り出すタイプ。本人はモラハラだなんて思ってなかったですね。
共働きだったのに家事育児はしないし、せめて手伝ってほしいと言っても『オレと同じだけ稼ぐようになってから言って』と。
稼ぐ額が問題ではなくて、ふたりともフルタイムなのだからできる家事はしてほしかった。でも夫は稼いでいるほうが上、という考え方でしたね」
大手企業のいわゆる“エリートサラリーマン”の夫からみると、工房でデザイナーとして働く妻が「遊んでいる」ように見えたようです。
以前から家で仕事をすることもあったのですが、そのたびに夫はパソコンを覗き込みながら、「絵を描いて遊んでいるみたいなのに、お金もらえていいね」とつぶやいたそう。
「仕事を侮辱されているのは本当につらかった。私はこの仕事が大好きだし、給料だってそんなに悪いわけではないと思います。
夫は自分が一般的な会社員より給与が高いから、自分より低いとそれは能力がないからだ、と思ってしまうだけ」
ユウミさんの中では徐々に夫から気持ちが離れていくいっぽうで、子どもが小さいことが夫婦関係を踏みとどまらせていた部分もあったようですが…。
子どもが4歳と2歳になったころ、夫の浮気が発覚しました。
夫は一応、謝りながらも「オレが浮気したのはおまえにも責任があるんだからね」と開き直りました。子どもにばかり手をかけて、オレのことはないがしろにした、と言うのです。
「おまえは子どもか、と内心ツッコみました(笑)。でもそのときふと思ったんです。本当に夫がいなかったら、私はもっとラクかもしれない、と」
夫から浴びせられた横暴な言葉をメモしておきました。ときには録音したこともあります。
暴力はふるわなかったものの、夫は不機嫌になると大きな音をたててドアを閉めたり、物に八つ当たりすることも。子どもがその音に怯えて泣き出したこともメモしました。
「半年もたたずにノート1冊が夫の暴言や乱暴な態度のメモで埋まってしまった。日々、こんなに不快な思いをしているのかと考えたら、この生活に意味があるのかなと」
離婚に向けて、ユウミさんは舵を切りました。
無理する結婚生活より解放感あふれる離婚人生
子どもが5歳と3歳になった年、ユウミさんは離婚しました。
夫はなかなか納得しませんでしたが、浮気が続いていたこと、暴言の数々をユウミさん側の弁護士に指摘され、協議離婚に応じました。
「養育費はふたりで8万円。今後、私立等に入学したときは別途支払う、代わりに私への慰謝料はなし、というのが夫の条件。
私は、慰謝料はいらないから今住んでいるマンションを寄越せ、と粘りました。ここは私も、私の親も頭金を出しています。
いろいろ揉めましたが、住まいは重要だし、子どもたちの精神面を考えても引っ越しはしたくなかった。結局、預貯金折半を放棄して住居をとりました。夫に内緒の貯金も少しあったので」
以来、子どもたちと3人で暮らして3年たちますが、「なんともいえない解放感」を得たユウミさんは、すっかり気持ちが明るく前向きになったそう。
「翌年の年賀状は子どもと3人で撮った写真を印刷、『3人で仲良く、解放感あふれる生活をしています。遊びに来てね』と書いて友人たちに送りました。
友人も気軽に遊びに来てくれるようになったし、実母もよく来ます。夫の姉も来るんですよ。最初は元夫に言われて来ているのかと思ったんですが、そうではなかった。
『私はあなたの味方だから』と、ときどき手作りケーキを持ってきてくれます。これがプロ並みにおいしいんです」
離婚して初めて、周囲に感謝する気持ちも出てきました。自分に余裕がないときは周りを見ることさえできなかったと、彼女はしみじみ言います。
「子どもから父親を奪ってはいけないのではないかと悩みましたが、子どもたちも夫の声や態度に怯えることがなくなり、笑顔が増えました。
手がかかる上に愛情を示そうとしない夫と別れてよかった。シングルマザーのほうがずっと楽です」
最後は心からの笑顔を見せて、ユウミさんは去って行きました。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。