福岡県北九州市に本社を置くスターフライヤーは、ペットと一緒に飛行機に乗れるサービスをまもなくスタートさせます。サービス導入に至る経緯や、国内では初の実施にあたって工夫されたことなどを経営企画部の岸上雄一郎さんに伺いました。
ペットはケージに入れて足元ではなく座席に
── ペットと一緒に飛行機に乗ることができるサービス「FLY WITH PET」を3月27日から始めるそうですが、これまでの反響はいかがですか。
岸上さん:
半年先までの航空券を販売しておりますが、10月末までの対象便で大型連休などを中心にこれまで30件以上のご予約をいただいております。
小型の犬と猫を対象に羽田―北九州間の1日4便、1便につき1匹ずつからのスタートになりまして、料金は1匹あたり5万円です。今後の状況次第で、対象便や乗るペットの数を増やしていく予定です。
── ペットは飛行機のどの席に乗るのでしょうか。
岸上さん:
機体の最後列の窓側の座席になりまして、隣に飼い主の方が座ります。シートカバーをした座席の上にクッションを置き、その上にペットを入れたケージを置いていただきます。
── 海外の航空会社を利用した際に、足元にペットのケージを置いていたのを見ましたが、座席の上に置くのですね。
岸上さん:
当初は足元に置くべく検討したのですが、弊社の機体には足置きがあったり、個人モニターの配線のボックスもあったりして、スペース上に問題がありました。足元ですと、ペットの大きさが限定されてしまうので、より多くの方にご利用していただくため、思いきってひと座席を使用していただくことにしました。そうすることでペットが飼い主の顔を見ることができ、安心して、機内で落ち着いて過ごせるというメリットもございます。
きっかけは「なぜ日本にはないのか?」という疑問
── これまで国内の航空会社で飛行機にペットを乗せる場所は、機体の貨物室に限られていました。なぜ機内の同伴サービスを導入することにしたのですか。
岸上さん:
海外では当たり前にあるサービスです。弊社にも海外の航空会社に勤務経験があるスタッフがおりまして、日本にはなぜペットと乗れるサービスがないのかという疑問からスタートしました。
コロナ禍でペットを飼われる方も増えるという情勢もありまして、具体的には2020年末頃から動き出しました。航空需要も下がってきていたなかでの取り組みでした。
日本のペット市場を調べてみますと、飼われているペットの数は15歳以下の子どもの数より多いという現状があります。市場規模が1兆6000億とも言われており、これは多くの需要があると見込みました。
── なぜ日本はペット同伴のサービス導入が遅れていたのでしょうか。
岸上さん:
諸外国を調べてみますと、ペットの販売から飼育まで行政が徹底管理している国もあり、家族の一員としての地位が昔から確立されているのだと感じました。ペットを飼うことがステイタスとされ、室内で飼う歴史が長い国もあります。
日本では、犬は番犬として外で飼っているご家庭も多く、野良猫をペットとして室内で飼う方もいらっしゃいます。
こうした背景から衛生面などで抵抗があるという意見が生まれているのだと思います。一方で、現在は室内で飼われる方も多くなってきており、以前よりも清潔度も増して家族の一員として考えていらっしゃる方が増えてきていると感じております。
アレルギーに臭い…導入に向けた課題が
── サービス導入にあたって苦労されたことはなんでしょうか。
岸上さん:
社内でもさまざまな意見がありました。動物が苦手なお客様やアレルギーをお持ちの方への対応はどうするのか…。反対意見があっても需要があると見込んでいましたので、「日本の航空会社を変えるサービスを我々から始めましょう」と社内中を説得して回りました。
その後はまず航空局への打診から始めました。これまで国内には存在しなかったサービスなので、法整備がなく、盲導犬など、介助犬以外のルールはありませんでしたので、空港のターミナルビル会社との調整もありました。
── 社内でも懸念材料として挙げられていましたが、アレルギーがある方や臭いの問題はどのように対応されるのですか。
岸上さん:
臭い対策として、ペットには必ずオムツを着用していただくことにしています。導入にあたって、獣医師やペット事業者様に相談を重ねました。臭いは手入れの行き届き方で変わってくるようです。
ブラッシングをしたりシャンプーで洗ってあげたりすると、機内で感じる臭いのほとんどを防ぐことができ、いちばん懸念される臭いの根源である排泄物に関しては、オムツを履くことで防げるということでした。
ご予約いただくお客様にも、事前にケアを徹底していただくようお願いしています。
アレルギーについては発症源について伺いました。
いちばんはペットの体毛や唾液に直接触れることで起こる反応だそうなので、ケージとシートに工夫を加えました。機内に持ち込んでいただくケージは、できるだけ毛を飛散させないよう、こちらで用意した2重メッシュを使ったものをご利用いただきます。
ご自身でお持ちのものが基準を満たしていればそのままお使いいただくこともできます。座席のシートにはカバーをつけて毛の付着を防ぐようにしています。
── 導入前には検証フライトを行ったそうですね。
岸上さん:
10回にわたって検証フライトを行いました。まずはペットを飼っている社員、次にペット事業者様からのご紹介でペットを飼われている一般の方にペットと一緒にモニターとして乗っていただいてお客様の声を頂戴しました。
これをもとに、搭乗手続きの手順を簡素化したり、ケージの入れ替えの際に逃げ出さないよう別室を確保したりするなどの変更点を加えました。
最初は個人でお持ちのケージをご利用いただいていたのですが、機内だけではなく空港内も移動する必要がありますので、スムーズに移動できるよう車輪がついたケージに変更しました。
そのほか清掃に関しても、掃除機と粘着テープ、消臭剤を使用し従来のプロセスより重点的に行うことにしています。
── 動物が苦手なお客様がいらっしゃる場合はどうされますか。
岸上さん:
ペットが乗る便は事前にわかるようにしていますが、ご希望のお客様には座席の移動や、便の変更も対応させていただきます。ペットがいらっしゃる方の機内への搭乗方法は、最初に乗っていただき、最後に降りていただくことにしまして、他のお客様との接点をなるべく減らすようにしました。
── 機内で吠えてしまうなど、ペットの騒音も心配です。
岸上さん:
その点も懸念として上がりましたが、実際には飛行機のエンジンの音でほとんどかき消されていました。テストフライト中もずっと鳴いている猫がいたのですが、他のお客様が気づくことがありませんでした。犬に関しては大人しくしていましたし、基本的に飼い慣らされていることを条件にさせていただいております。
他のペットがいると吠えたり鳴いたりすることが多いということもあり、最初は1便につき1匹ずつ始めることにしています。今後、頭数が増える場合も、座席面で向かい合わないようにするなどの配慮を考えています。
── 緊急時にはペットはどうなりますか。
岸上さん:
いちばん心苦しいところなのですが、法律上、ご同伴いただくペットは持ち込み手荷物となってしまいますので、緊急脱出時には機内に置いていかねばなりません。
また、ペット用の酸素マスクも搭載しておりませんので、その点も事前に同意書にご承諾いただくことになっております。海外の航空会社も調べましたが、同様の措置を取られていました。
── 国内初のサービスを始めるにあたって、どんなことを伝えていきたいですか。
岸上さん:
スターフライヤーは「感動のあるエアライン」を企業理念にしていまして、これまでなかったことに取り組むことで、お客様に感動体験をしていただこうとしております。
私たちが先駆けで始めますが、ペットとの移動が当たり前になる日本社会になって欲しいと思います。ご家族の一員としての大切なペットですので、引っ越しやご旅行の際などの負担や不安を少しでも減らして、皆様に素敵な体験をしていただきたいと思っています。
取材・文/内橋明日香 写真提供/スターフライヤー