昨年4月、1200以上のNPO団体に寄付できるサイト『Syncable(シンカブル)』で、元・競走馬ナイスネイチャの33歳(人間だと90歳以上!)をお祝いするバースデー・ドネーションが行われ、3500万円以上の寄付金が集まりました。

 

ウマが人間以上に高額な支援を集めたのは史上初。人気の理由から昨今の寄付トレンドまで『寄付白書』を発行する日本ファンドレイジング協会さんに伺いました。

ウマ娘人気で過熱!誕生日に寄付をする「バースデー・ドネーション」

バースデー・ドネーションとは、誕生日プレゼントのかわりに、誕生日の人が支援している団体へ寄付をお願いすること。Facebookでは「誕生日募金」、著名人が賛同する「誕生日寄付」など広がりつつある、新しい寄付の形です。

 

日本ファンドレイジング協会 マネージング・ディレクターの宮下真美さんによると、近年、応援したい気持ちを寄付に込める人が増えているそう。

 

「ナイスネイチャは、昨年5回目となるバースデー・ドネーションを実施したのですが、これだけ多くの支援金が集まった背景には、アプリゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の影響があると考えられます。

(画像提供/Syncable)

 

日本人に馴染みがある“推し文化”や“応援したい”という気持ちが、寄付として広がったのではないでしょうか。

 

ちなみにこの寄付金は、認定NPO法人引退馬協会へ渡り、引退した競走馬が余生を送るために使われます。

 

SNSなどを通じて、ファンが応援する姿をみて、引退馬の実情を知り、私も寄付してみよう! という流れが加速したと言えそうですね」

 

応援したい気持ちを寄付に変える動きは、東日本大震災以降に登場したクラウドファンディングも同じ。

 

実際にどれくらいの人数が応援し、いくら集まっているプロジェクトなのかがリアルタイムで見えることで、信頼にもつながるのでしょう。

お金だけじゃない! 髪の毛や書き損じハガキも立派な寄付に

「お金の寄付だけでなく、最近ではモノの寄付も広がりを見せています。金銭的な余裕がなくても参加できますし、年齢が小さいお子さんでも参加できるんですよ。

 

自分の髪を寄付する『ヘア・ドネーション』もそのひとつ。芸能人の方がSNSを通じて報告する人が増え、一般の方にも髪の毛に困っている人がいると認知されるようになりました。

 

親子で取り組む人の中には、なかなか髪を乾かさなかったお子さんも、誰かのために…と髪の毛を大事にするようになった話も聞きます」

 

また、「書き損じハガキ」をボランティアスタッフが換金し、寄付する取り組みも。

 

「換金料金は通常の葉書代から、手数料の5円が引かれますが、年間1億円以上の支援額が集まっています。

他にも、『フードバンク』や『古着』などモノを寄付する方法もありますし、面白いところで言うと、日本財団が取り組んでいる1本のドリンクを購入すると10円寄付できる『チャリティー自販機』など、身近な寄付がどんどん増えているんです」

「返礼品なし」の寄付件数が2.4倍増!「ふるさと納税」も人気

寄付を特徴分野別にわけると、以下の3つに分けられます。

 

国際協力や自然・環境保全といった社会貢献に使われるもの、自治会(老人クラブや町内会)や宗教・政治・業界団体に使われるもの、そして「ふるさと納税」があることも忘れてはいけません。

 

ふるさと納税は、節税としてのお得感もあり、寄付以外の部分で注目を集めていますが、本来の目的は、住んでいる地域や、思い入れのある地域を支援すること。

宮下さんによると、ふるさと納税の寄付件数は年々増えているそう。

 

「2016年は2844億円だったふるさと納税額も、2020年には6725億円にまで拡大しています。

 

返礼品に注目が集まっていますが、ガバメントクラウドファンディングといって自治体が支援金を募る、返礼品を目的としないものも増えているのが特徴です。

 

たとえば、『ふるさとチョイス』さんの中だけでも、返礼品のない寄付件数が、2019年から2020年の1年間で2.4倍になっています。

 

SNSでも情報発信が活発に行われているので、これから寄付体験をしたい人にとって、ふるさと納税はいいきっかけになるのではないでしょうか」

シニア世代を中心に広がりを見せる「遺贈寄付」とは?

そして最近注目が集まっているのが、亡くなった後の財産の一部を支援したい団体に寄付する「遺贈寄付」。

 

生きているうちに寄付先を決めておき、お金や不動産、株式などを遺言書に記しておくものです。

 

「相続人がいない場合、財産は国庫へと入るため、おひとりさまを含め、じわじわ広がりを見せています。

 

相続人がいないまま亡くなってしまうと、財産が何に使われるかはわかりません。だったら、寄付をして有意義に使ってもらおうという心理が大きいと思います。

 

最近は、40〜50代から遺贈寄付を考え始めるシニアの方も多いですね。

(画像提供/日本ファンドレイジング協会)

 

遺贈寄付は、支援される団体にとっても、まとまった大きなお金が入ることで、活動の幅も広げることができる。自分の財産が役立ち、寄付によって未来が変えられる、そんな思いを託す人も増えているようです」

 

支援から身近な応援へと変化している「寄付」。お金やモノ、さまざまな寄付の形がありますが、寄付した行為に関心を持ち続けることが求められているのかもしれません。

 

「寄付して終わりではなく、自分のお金やモノがどのように渡り、社会が豊かになっていくのか、責任を持って見届けることもとても重要です。

 

選択肢が広がった今、ご夫婦で、親子で、応援したい気持ちから寄付をしていくことで、社会が少しずつ良くなっていくのではないでしょうか」

 

PROFILE 宮下真美さん

日本ファンドレイジング協会・マネージング・ディレクター。大学卒業後、バイオ系べンチャー企業でマーケティング業務に従事し、2011年より日本ファンドレイジング協会へ。日本社会におけるファンドレイジングの普及啓発を推進している。

取材・文/つるたちかこ