福永祐一騎手と結婚後、フジテレビを退職、その後京都で生活を送っているフリーアナウンサーの松尾翠さん。3人のお子さんの子育てをしながら昨年、新たに始めたオンライン本屋について、立ち上げのきっかけや思いを伺いました。

「新しいステージが始まる予感がした」3人の出産後に立ち上げた本屋

──昨年から本屋を始められたとのことですが、具体的にはどんなことをしていらっしゃるのでしょうか。

 

松尾さん:

基本は、オンライン本屋さんです。毎月10冊程度の選書を出して、その本に対する書評を書かせてもらったり、インスタライブで「この本はこういう風に楽しむのが私は好きで、こんなところが魅力です」というのを熱くしゃべらせて頂いたりしています。そのあとで私たちの本を気に入ってくださった方が発注してくださいます。

 

あとは依頼があった場所向けの選書をしています。たとえばサウナ施設だったら、整った後に読みたい本100冊とか。学生さんが多いお店だったら旅のものを入れてほしいとか、主婦層が多いから暮らしのものがあるといいといったお店のリクエストを聞きながら、本を選んでお渡ししています。

──子育て中に始められたということですが、動き出したきっかけは何でしたか。

 

松尾さん:

昨年のはじめごろから動き始めたのですが、すぐに本屋さんが出来たわけではないんです。ここ3~4年、子どもを3人産んでからは、京都を離れずにここを守っていく、ここで根を張る時期だなと思って過ごしていました。

 

ありがたいことに、旦那さんも念願だったダービーのタイトルを獲ることができて、3回も勝たせてもらいました。本当によかったな、ようやくここまで来れたなと思えるタイミングに来たと感じるいっぽう、何かまた次の新しいステージが始まるような予感もありました。3人目の子が生後半年くらいのときです。

 

このまま居心地がいい家庭という場所を守るのもいいなと思っていました。新しくまた社会に出るのは少し怖かった。でも離れてしまったからといって私なんて何もできないというのではなく、一度の人生だから、自分が見たいと思う夢を叶えたいと思う自分を許していこうかなと思ったんです。

「本が暮らしに息づくことをしたい」好きな本を仕事にする生き方

──ご自宅にも本がたくさんあって、無類の本好きと伺いました。

 

松尾さん:

本がずっと好きで、絵本も漫画も含めて、絶えず何かを読んでいます。その世界とはずっと仲良しだったので、本が暮らしの中に息づくようなことをプロデュースできたらいいなと思ったんです。

 

今、本があまり売れないというのも、こんなタイムカプセルみたいな素敵なものがあるのに!と思ってちょっと悔しいです。読んでみたら絶対ハマるし、ハメる自信もあるぞと思って、「よし本屋さんになろう」と思ったんです。

──実際にはどのように動き始めたのですか。

 

松尾さん:

本屋さんになろうとは思ったものの、最初はなり方もわからない、なれるかもわからないという状態でした。でも、現実にできるかよりも、自分が挑戦したいと思ったことに対して動いてあげたい。子どもや旦那さんを思うような気持ちで、自分にも優しくしてあげたいと思ったんですね。

 

そこから「私、本屋になりたいんだよね」と周りに口にし始めました。

手探りでスタート 仲間に支えられながらの起業

── 一緒に働いているスタッフの方は元々友人だそうですね。

 

松尾さん:

友人2人が一緒にやりたいと言ってくれました。1人はママ友、もう1人は京都関連のイベントなどを一緒にやっていた友人です。

 

結果今、2人とも元々していた仕事に区切りをつけて、一緒にSENSE OF WONDERを動かしてくれていて、これはすごい決断力だと尊敬します。

 

何もない状態の時に、面白そう!と賛同して仲間に入ってくれたこと自体がすごくありがたいし、口にし始めた夢が、3人になったことで本当にスタートする原動力にも推進力にもなりました。

松尾翠さんとSENSE OF WONDERのスタッフ

 

──ちょうどコロナ禍で生活様式や働き方も変わってきた時期でしたね。

 

松尾さん:

私はもともと気質的に、無茶と無理をする方なんです。でも、世の中の働き方も変わっていく過渡期に誕生した本屋ということもあるので、心が苦しくなることはせずに成立させる方法を、女性3人で模索していきたいです。そのためには自分たちのコンディションがいい状態で、みなさんに本を届けられたらと思います。

笑顔が絶えない松尾さんとSENSE OF WONDERのスタッフ

目指すは「世界一、顔が見えて温度がある本屋」

──夢だった本屋を立ち上げることができたわけですが、今改めてどんなことを思いますか。

 

松尾さん:

本というものを通して、たくさんのお客さんが集まってくださいました。世界一、顔が見えて温度がある本屋さんというのをモットーにしていますが、そういう場所ができて幸せだな、あのとき挑戦したいと思った自分に、ちゃんと夢を見させてあげてよかったなと思っています。

 

──3人のお子さんにとって、本はどのような存在であってほしいですか?

 

松尾さん:

おもちゃと変わらない、最初の遊び道具になったらいいなと思っています。少しわかるようになってきたらストーリーのあるものを読んで、頭の中でいろいろなイメージが膨らむ面白い道具だと思ってもらえたらいいなと。読んでもらうと、どんどんイメージが広がる。そこからだんだんと自分で読むようになって、絵がなくなって文字だけだったとしても、知らない世界に行けたり、勇気をもらえたり、知らなかった価値観をちょっとずつその子なりに受け取ってもらえたらと思っています。

絵本を選ぶ松尾さんとお子さん

 

──これから実現したいことについて教えてください。

 

松尾さん:

コロナが落ち着いたら、実際にみなさんのところに行って絵本を読んだりもしたいし、大人の層の方向けの読書会など、本を通してその人の人生観について話したり、質問があったら答えるというような活動をしていきたいです。

 

コロナ前に開催していたイベントでは、読み聞かせや子育てについてなど、いろいろな悩みやご質問をいただいていました。これからは、私に力になれることがあるならば、それに応えていきたいと思っています。

 

PROFILE 松尾翠

フリーアナウンサー、「SENSE OF WONDER」主宰。1歳3歳7歳の3児の母。夫はJRA騎手の福永祐一。2006年フジテレビ入社、2013年結婚を機に退社し京都に移住。出産後、本を通して体験することをモットーに「SENSE OF WONDER」を設立。選書、イベント、執筆などを行い、現在はオンラインショップで毎月おすすめの本や逸品を受注式で取り扱っている。

取材・文/内橋明日香 写真提供/松尾翠