男性の誘いに応じれない女性の苦しさ

一昨年の離婚件数は約209000件(2019年度/厚生労働省)。婚姻件数は約599000件なので離婚率は35%前後にのぼります。いっぽう、どちらかが再婚や双方再婚も、婚姻件数の約25%。再婚もまた珍しくはありません。ただ、なかには「再婚したい」と言いつつ、なかなか踏み切れない人もいるようです。

「再婚」に二の足を踏むのは男性でなく

 

26歳のときに交際1か月で結婚、1年もたたずに離婚したハルミさん(33歳・仮名=以下同)。若気の至りと割りきって、それからも結婚に後ろ向きではないと自分では思っていました。

 

 

20代後半はまた、結婚したいと思っていたし、友人にも『誰か紹介して』と言ってました。実際、紹介されたこともありましたよ。友人も交えて会っているときは楽しいんですが、いざ相手の方から連絡があって『今度、ふたりで食事に行きませんか』と誘われると、急に二の足を踏んでしまうんですよ。いい感じの人だと思っていても

 

そんなことを何度か繰り返していたハルミさん。実は再婚をしたいと思っていないのかもしれない、と自分自身に疑問を抱いたといいます。結婚について悪いイメージをもっているのか、あるいは家族への不信感か、自分でもいろいろな角度から考えてみました。

 

「ごく普通のサラリーマン家庭で育って、親子関係もごく普通だったと思うんです。特に親から虐待された記憶もありません。それなのにどうして結婚に対して気持ちが動かないのか。ずっと考えていたら、思い当たる節がありました」

 

それは自分でも意外なことでした。

仲の悪い母と祖母の関係がトラウマに

ハルミさんが思い当たったのは、祖父母と母との関係でした。

 

「同じ敷地内に父方の祖父母が住んでいた。私が小さい頃、祖母はいつも母に文句を言っていた。私は祖母にはかわいがられていましたが、同時に母の悪口も吹き込まれていたんです。『あんたは、おばあちゃんの味方だよね』とも言われて

 

今、思えばハルミさんは祖母と母との板挟みになっていた。子ども心にどちらも好きだし、でも母に文句を言っている祖母は嫌で、泣いている母を見るのもつらかったといいます。

 

「大きくなるにつれて、祖母が弱っていき、いさかいはなくなったんですが、今度は母が祖母の愚痴を言うようになって。高校に入ると私は自分の生活を優先させていたし、祖母も最終的には施設に入ったのですが。そういうことを思い出して、私に何らかの影響を与えているのかもしれないと初めて感じました」

 

子どもの頃のことだから“心の底”にしまわれたままになっていたのか、あるいは、思い出したくない出来事だったのか。いずれにしても、そのことが自分の「家族観」に影響があるとハルミさんは思い至りました。

 

「結婚しても相手の親や親戚といっさい関わらなくてすむならいいけど、そうもいきませんよね。だから結婚という言葉を聞くと、気持ちとしては前向きになりたいと思いつつ、どこかでブレーキがかかってしまうのかもしれません」

知り合う人との関係をよくしていきたい

それだけではなく、自分の人間関係の作り方も実はとても下手なのではないか、とハルミさんは感じているそうです。

 

「自分をオープンにして明るく関係を作っていく人が昔から羨ましかった。私はオープンにしているつもりでも『自分をさらけ出さないよね』と言われてしまう。かといって何でも言えば人を傷つける。人にどう思われるかというより、私は人を傷つけるのが怖い。祖母に傷つけられていた母を見ていたことが、一番ショックだったのかなと思います」

 

30歳を過ぎて、ようやく自分の心の芯にあるものを見つけたハルミさん、それに気づいただけでもよかったと思っていると話してくれました。

 

 

「いくつになっても変われると信じて、少しずつ自分を変えていきたいと思っています。結婚ありきではなく、まずは知り合った人と一歩一歩近づいて、いい関係を作りたい」

 

恋愛や結婚も人間関係のひとつ。心にトラウマを抱えていると自覚している人もしていない人も、ときどき自分を見つめ直し、相手との理解を深めながら傷つけずに円滑な関係を作っていきたいものです。

男性の誘いに応じれない女性の苦しさ
苦悩の正体は幼少時の母と祖母の関係
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。