4月オピニオンスライダー

「女の子なんだから、都会で一人暮らしなんてダメ」「女性というものは結婚したら夫の家に尽くすもの」。こんな言葉を聞いたり、言われたりしたことはありませんか?

 

女性の生きづらさが少しずつ改善されつつある現代ですが、人や物、価値観が次々と移り変わっていく都心部に比べ、地方では「女性の生きやすさ」が置いてけぼりになっていることも。CHANTO WEBでは地方で生きる女性たちに注目し、住んでいる場所や生まれた土地にかかわらず、すべての女性が「生きやすさ」を求められる社会について特集を組みます。

 

第1回は地方で生きづらさを抱える女性の心理をリアルさがTwitterで話題になった『帰郷』の作者で、現在CHANTO WEBで『蝶よ花よ』を連載している冬虫カイコさんに話を聞きました。冬虫さんも自身も地方出身ということで、作品への思いをベースに地方の女性の生きづらさや閉塞感の正体について伺ってみました。

Twitterで話題になった漫画『帰郷』

冬虫カイコさんの漫画『帰郷』は、地方出身の女性の抱える生きづらさを描いた作品として話題になりました。

 

主人公の美幸と従姉妹の真喜は、同い年でずっと親友でもありましたが、高校卒業後に美幸だけが都会の大学へと出ていくことに。数年後に真喜が亡くなり、社会人になった美幸が地元に戻って葬儀に参列。作品では、そこでの親戚との会話や田舎特有の「女の子扱い」に閉塞感を感じる主人公の心理をベースに物語が進行していきます。今回は冒頭の8ページを掲載します。
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』
冬虫カイコさん『帰郷』

Twitterで反響の大きかった『帰郷』の制作背景

── 『帰郷』は地方のいわゆる「田舎」で育った主人公とその従姉妹の人生を通して、地方の女性たちが背負うものを描いた作品です。冬虫さんも地方の出身だそうですね。『帰郷』を描こうと思った背景には、やはりご自身の経験もあったのでしょうか。

 

冬虫さん:

私自身は住んでいたのが新興住宅地だったこともあり、地域のしがらみに縛られたことはありませんでした。進路などに関する家族の方針も比較的自由なほうでしたし。

 

そんな中で帰郷を描こうと思ったのは、友達の帰省に同行したのがきっかけです。友達はある地方の山村地帯の出身で、一族の中で上京したことがある唯一の存在。家族は別にそのことを否定しているわけではないし、友達の帰省も私を含めて大歓迎してくれました。でも、東京に行くという道を選んだ友達に対しては「昔から変な子だったしね」みたいな感じで、完全に異物という扱いだったのが印象的でした。

 

── その土地や家族の”スタンダード”から外れた存在に対する扱いには私も覚えがあります…。

 

冬虫さん:

家族の態度は悪意でもないし、別に友達の道をさえぎるのでもありません。彼女も悪意があって何か言われたら反撃すると思いますが、「愛情」のもとにいろいろ言われるので反論もできない。でも友達としては、彼らがまったく疑いなく「そこで暮らし続ける」という決められた道を歩んでいることに、違和感があったんだと思います。

 

一緒に実家に滞在しているうちに、友達はどんどん元気がなくなっていきました。そしてふとした時に、ぼそっとつぶやいたのが「ひとりにしてくれ」。その万感の思いがとても心に響いて、漫画にしたいと感じたんです。そのひと言をとっかかりにして、周りの人から聞くいろいろな話を統合しながら、一人の女性の生きにくさの側面を表現しました。

作品を通して、さまざまな人の境遇が聞けた

『帰郷』のプロット。善意の決めつけエピソードとして、「お嫁にいった先で苦労しないためなんだから」という親戚女性たちの言葉がメモされている。

 

── Twitterでは、『帰郷』の主人公に共感する方もいれば、「田舎はそんな悪くない」と語る人もいるなど、いろんなタイプの意見が寄せられましたね。

 

冬虫さん:

引用リツイートなどで追いきれないほどたくさんのコメントをいただきました。もともと田舎に帰ったときに居辛さを感じる人からは共感してもらえるかなと思っていましたが、それ以外の境遇の人からも反応をいただけたのは意外でした。田舎から出てきた人、出たかったけど出て来なかった人、出たくなかった人、などたくさんの人の生い立ちや、置かれている環境を教えてもらいました。

 

漫画そのものの感想というよりも、作品によって引き出された個人的な気持ちを書いてくださる方が多く、そういうタイプの感想をいただくのは初めての経験でした。

土地などへの帰属意識に、生きづらさを感じる人もいる

── 『帰郷』の主人公・美幸が感じる生きづらさの正体って、何だと思いますか?

 

冬虫さん:

私は土地に縛られることや、選択肢の少なさが、生きづらさの本質ではないかと感じます。生まれた土地や住んでいる土地がアイデンティティーを構成する大きな要素となっている人たちの中には、土地と自分たちがイコールになっている人がいると思います。そういう人たちの集団から離れようとすると、あたかもその人たちを否定しているような形になってしまうことがあるのではないでしょうか。

 

私の友達のケースもそうですが、そういうしがらみの強さに対して生きにくさを感じる人はいると思います。それは田舎だけでなく都会にもあることだと思いますが。

 

── 都会だと人の入れ替わりが多いぶん、そういうしがらみに気づきにくいのかもしれませんね。地方だと昔から住んでいる人も多いので、帰属意識の強さが目立つ気がします。帰属意識といえば、土地以外にも、会社や近所、子どもの園などに関してもありそうです。「〜さんちの〜さん」「〜ちゃんのママ」などと認識されることに違和感のある人とそうでない人がいますよね。

 

冬虫さん:

そうですね。最初は違和感のあった会社の方針や慣習も、勤続年数が長くなると当たり前に感じるようになって、後から入った人に同じように要求したりすることがあると思うし、地域や家族にもそういうことはあります。

 

私は昔からそうした帰属意識に違和感を感じるほうで、たとえば中学生の時に「うちのクラスには面白い人が揃ったよね」という先生のひと言にあれ?と思ったりしました。そういう違和感が『帰郷』の原点になっているかもしれません。先生は悪気がないし、みんなで楽しくて仲良しなのはうれしいしいから否定はしないけど、「このクラスは〜」とひとまとめにすることに違和感を感じるというか。

 

── そういう違和感を抱く人は結構いるのかもしれないですね。そういえば、学生の頃にクラスTシャツに「クラスらしい言葉」を決めて書こう、なんてこともありました…。

 

冬虫さん:

ありますよね(笑)。そういうことが好きな人もいれば、「Tシャツは欲しいけど、言葉を書くのは嫌」「クラスTシャツ自体着たくない」など、実はいろんな意見があると思います。親愛の情のもとに押し付けられるのはしんどいし、相手に悪気はないから反論もしづらい。『帰郷』のモデルになった友達がつぶやいた「ひとりにしてくれ」に近い感情なんじゃないかと思うんです。

 

どちらがいいとか悪いとかいうことはなく、こうした帰属意識をきゅうくつに感じる人もいれば、何かに帰属していることに安心感を感じる人もいる。ただ、“所属”に個人の価値観や決定権をゆだねてしまうと、そこから離れても離れなくても、実はしんどいのではないかなと思います。

 

PROFILE 冬虫カイコさん

冬虫カイコさんプロフィール画像
漫画家。代表作に『君のくれるまずい飴』(KADOKAWA)web掲載『少女の繭(読み切り全3話)』『連載母と姉(全8話)』(スキマ)、『美術部のふたり』(COMICメテオ)、『帰郷』(祥伝社アキjam2020)など。

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地元に帰省した友人の漏らした「ひとりにしてくれ」という言葉から女性の生きづらさを炙り出した冬虫さん。人間の持つ帰属意識が「生きづらさ」を生み出しているのは、関わっている〝所属〟への意識を客観的に見つめ直すことで解消できるのかもしれません。所属も大切にしつつ、自分自身の気持ちも大事にしていけるといいですね。


取材・文/野中真規子