元気じゃないと話せない、お墓のこと
そんなわけで私たち夫婦の結婚以来、長年の懸案事項だったお墓。
しかし、なかなか嫁の立場からは、義父母の入る予定のお墓の話というのは切り出しにくいものです。ここは息子である夫の出番だよ!お墓のことだけじゃなく、没後の相続のことなんかも、生前にきちんと相談しておかないと大変なことになるよ!と、事あるごとに夫にはっぱをかけてきたのですが、口下手で引っ込み思案なところのある夫、そうだよね、と頷きはするものの、一向に話を切り出す様子はありません。
そうこうしているうちに時は流れ、なんと同居を始めてから十数年の歳月が経ちました。
さいわい、その間に家族の誰かがお墓に入るような事態は起こらなかったものの、最高齢の義父ははや八十代。大きな持病もなく元気ではありますが、男性の平均寿命も超え、いつ何があってもおかしくはないお年頃です。
いいかげん痺れをきらした私は、ついにキレ気味に夫に詰め寄りました。
「お墓の話が和やかにできるのなんて、家族全員元気なうちだからね!猶予はもうゼロだからね!今年!いま!話さないと!!」
そんな鬼気迫る勢いについに覚悟を決めたのか、夫の口から、ようやくお墓問題が切り出されました。
「お墓参り、なかなか行けないと私たちも気が咎めて…」「できれば近くにお墓を買いなおすわけには…?」
そんなふうに聞けば、義父母もまんざらではない様子です。富士山麓はもともと特に思い入れもない場所らしいので(勢いで買っただけのことはある)、返品も返金もできなくて勿体ないとは思うけれども、新しいお墓、前向きに考えてみましょうか…ということになりました。
誰か適当なお骨持ってない?
それなら善は急げ、とばかりに近隣の墓地の情報を集め始めたのですが、これがなかなか難しいのです。使用料が安いのは公営の墓地ですが、空き区画に申し込むためには、手元に家族の遺骨がないといけないとのこと(自治体によって申し込み条件には違いがあります)。義父母は自分の没後にも安心するためにお墓を探しているのに、誰か亡くならないと申し込みさえできないなんて…?
義母「誰か適当なお骨持ってない?」
私「昔飼ってたハムスターのなら…」
と、くだらないやり取りをしても仕方ありません。
民営の墓地を調べてみたのですが、最近の墓地、多種多様でややこしいことこの上ないのです。昔ながらの一般墓に加え、永代供養墓は数万円から数百万円(その値段の差はどこから…?)、さらに樹木葬やら納骨堂、おひとり様用にファミリータイプ…調べるだけで頭から煙が出そうになってきます。
取り寄せたたくさんのカタログを見比べて、これから家族でめぼしいお墓を見学に行く予定です。
ひとまず前向きに動き出した我が家の終活に胸をなでおろしつつ、義父母が買った富士山麓の空っぽのお墓、もったいないことをしたな~、とつくづく溜息をつく同居嫁なのでした。
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文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ