カナコさん(仮名=以下同・46歳)は結婚して16年、ふたりの娘がいます。同い年の夫・ケイタさんとは5年つきあって結婚しただけあって、最初から仲のいい友だち夫婦でした。共働きで協力しながら、家事育児もなんとかやってこられたといいます。
「夫とはもはや親友ですね。下の子が産まれてから10年以上、ほぼレス状態でしたけれど、私はそれでいいと思っていました。もともとそんなにセックス自体が好きというわけでもないし、そうするなら早く寝たい。いつも疲れているから。夫もそうなんだと勝手に思っていたんです」
仕事も家庭も、忙しいけれど充実している。家族もそれなりに仲良くやっている。それ以上、何を望むことがあるのだろう、とカナコさんは感じていました。下の子が産まれてからは夫とも寝室は別。質のいい睡眠をとらないと翌日の仕事にも差し支えます。
「ただ、40歳を過ぎてから、なんとなくモヤモヤするようになったんですよ。娘たちは自分の興味のあることをどんどん見つけて未来に向かって生きていく。でも私は老いるだけなのかなあと思って。婦人科で診てもらったら40代前半にプレ更年期として体調を崩すことがあるらしいんです。それがメンタルに影響していたようです」
同窓会で会った片思いの彼。でも、私が意識したのは…
2年前の夏、カナコさんは実家で法要があり、帰省しました。長女はその時期、クラブ活動の合宿があり、次女は夫の実家でいとこと遊ぶといいます。家族バラバラで過ごす夏休みもたまにはいいかもしれないということになりました。
「ちょうど中学時代の同窓会もあって初めて参加しました。卒業して30年もたつのに、会えばやはり『カナコちゃん』と呼んでくれる友人ばかり。当時、片思いしていたショウジくんに会えたのも嬉しかった。『オレ、カナコちゃんのこと好きだったよ』と言ってくれたとき、体の芯が妙に柔らかくなるような、今まで感じたことのない感覚がありました」
ショウジくんは地元に住んでいるので、カナコさんが帰るときは駅まで送ってくれ、最後は「またね」としっかり握手をして別れました。
「彼が『すっごくいい女になったよ、いい生き方をしてきたんだね』と言ったんです。私のすべてを認めてもらえたような気がしました。同時に、男の人の若干、下心をもった目線を浴びて、ああ、私も女なんだと改めて思いました」
帰路、彼女は10代から今までの自分の人生を、つらつらと考えました。案外、いい人生だったと思ったそうです。
「でも40代に入ってから、何かが欠けている気がしてならなかった。それが女としての気持ちだったんだと気づきました。ときめきと言ってもいい。私には性欲なんてないと思っていたけど、明らかに自分の性欲を意識しました」
私が夫を誘うと「思わぬ告白」をされることに
頭に浮かんだのは夫のことでした。夫はすでに帰宅しており、長女も次女もいないので、久しぶりに夫婦ふたりきりで話しました。
「たった3日間離れていただけなのに、久々に夫と会ったような新鮮な気持ちでした。この人を好きになってよかったなという思いもあった」
その夜は初めてカナコさんから誘いました。そのとき、今まで気づかなかった大きな事実を知ったのです。
「私は夫が誘ってこないからレスになったと思っていたんですが、夫が初めて白状したんです。下の子がまだ赤ちゃんだったころ、夫が誘ったら私、すごく冷たく『そういうことしか考えてないんでしょ』と斬り捨てたそうです。夫はひどく傷ついて、『もう自分から誘うのはやめようと決めたんだ』と。まったく覚えていませんでした。幼児と新生児を抱えていっぱいいっぱいだったと思う。でも、『もう少し希望のある断り方をすればよかった』と、夫に言ったら苦笑していましたけど」
カナコさんのような例は多いそうです。心身共に疲れているときに夫から誘われて、にべもなく断り、夫が傷つく。カップルによってはそこから関係性にヒビが入ることもあります。
「もう一度、男女として少しずつやり直していきたい」と私から言いました。それ以来、親友という感覚は変わらないものの、そこにほんのり色気が戻ってきたとカナコさんは照れたように話してくれました。
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。