しわ寄せが非正規雇用の女性に及んだ可能性

── コロナ禍で、女性たちに何が起きているのでしょうか。

 

上田さん:

私は2020年4月から毎月1000人の方に、オンラインでアンケート調査をしています。その中で、メンタルヘルス(心の健康)の状況、それから経済状況についても聞いています。

 

その結果を見ると、やはり若い女性のメンタルヘルスの状態が悪いことが目につきます。経済面についても、40歳未満の女性が失業や休職、大幅な収入減などで影響を受けたと答えた人が一番多く、約30%にのぼりました。これが男性だと同じ年代でも18%ぐらいですからかなり少ない。

 

── どうして女性のほうが経済面でも悪影響を受けているのでしょうか。

 

上田さん:

女性のほうが非正規雇用が多いため、景気が悪化した際にシフトを減らされたり失業したりと、収入面で打撃を受けたのでしょう。また、コロナ禍の影響を受けている産業といえば宿泊業や飲食業で、女性が多く従事する業界です。その辺も併せて考えると、経済的な状況が女性の自殺者数の増加の背景にあるのかなと考えざるをえないですね。

 

── 今は一度失業すると、次の働き口を見つけるのも難しいですよね。

 

上田さん:

気になるのは、非正規雇用で、しかもシングルの女性がかなり増えてきていることです。そういう方が経済的な後ろ盾がない中で失業しても、公的な補助が日本ではなかなか得られません。特に若い人が生活保護を申請に行っても、なかなか受け付けてもらいにくい。そんな中で今回のコロナ禍、影響が大きくなかなか立ち直れない女性が多いというのが実情です。はっきりした因果関係を解明したわけでありませんが、そのあたりも自殺の大きなリスク要因と予測しています。

 

 

コロナ禍の女性の自殺率増加という点から見えてきた女性の雇用の不安定さや、公的補助の不確かさ。雇用保険や生活保護など若い世代へのセーフティネットを整備するとともに、なんでも「自己責任」にしてしまう雰囲気を変えていかないことには、私たちが元気に子育てをしていく雰囲気にはならないように思えます。

 

次回は働くママが抱える課題を探ると共に、女性の自殺を防ぐため家庭でどのようなことができるのか、上田先生に教えていただきます。

 

悩み・困りごとがあるときは…

まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

 

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PROFILE:上田路子(うえだ・みちこ)さん

早稲田大学政治経済学術院・准教授。2006年にマサチューセッツ工科大学で政治学を専攻。自殺予防学、公衆衛生学、社会疫学、アメリカ政治などを研究対象としている。シラキュース大学リサーチ・アシスタント・プロフェッサー時代の共著『自殺のない社会へ――経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ』(有斐閣)で第56回日経・経済図書文化賞受賞。

 

文/鷺島 鈴香 イラスト/小幡彩貴