職場で一般のお客さんからの電話応対を担当する女性は、クレーム対応などの際に「お前じゃ話にならない、上司を出せ!」などと言われたことはないでしょうか?

 

暴言が許されないのはもちろんですが、それとは別に、女性の担当者に向かって「上司を出せ」と言うときには無言のうちに「男性上司」を指している人が多いように思います。

 

2020年現在で、男女雇用機会均等法が成立してから35年、女性活躍推進法施行から4年が経ちますが、この「代表者や責任者は男性」という共通認識はいまだに男女問わず根強く残っているといえます。

 

なぜ日本ではこの状態が長く続いているのでしょうか。

「代表や店長は男性」と無意識に思ってしまう、アンコンシャス・バイアスとは

まずは、実際に「代表者や責任者は男性」という認識に疑問を感じたことのある人たちの体験談をもとに、なぜそうなってしまうのかを考えました。

 

Uさん(38歳・6歳児と2歳児のママ)は、第2子が生まれる前、自宅マンション購入のため話を聞いた不動産業者の担当者から、次のような対応をされたそうです。

 

「夫は当時フリーランスで働き始めたばかり。会社員で貯金・年収とも安定した私の名義で購入すると二人で決めていました。夫が上の子を抱っこして私が資料を手に訪れたのですが、受付では夫に書類を記入するよう促されました。上記を説明して私の名前を書いたのにもかかわらず、ソファに座ると、担当者は夫に名刺を渡し、パンフレットを見せて説明しはじめて」

 

お子さんが退屈してぐずり始めると、担当者は「あちらにおもちゃがありますので、奥様はお子さまと遊んでいただき、ご主人様は詳しく資料をご覧になっては?」とすすめてきたそうです。

 

「いや妻がメインで買いますので…と夫は何度も言ったのですが通じなくて。わずらわしいので、早々に退散してしまいました」

 

ときどき、駅や公共の場で女性をわざと狙ってぶつかってくる嫌がらせが問題になりますが、

 

「自分は、女性だからといって下に見たりしない」 「男女で扱いを変えているつもりはない」

 

と考える人でも、上記担当者のような無意識の思い込みは持っている可能性があります。

 

この思い込みは「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」と呼ばれています。

 

Wさん(37歳・小学校2年生の双子と3歳児のパパ)は、20代で入社したばかりの頃、上司の女性からこんな風に言われたそうです。

 

「これから初めて営業に同行してもらうけど、先方は10歳くらい若くてもたぶんあなたに名刺をくれると思う。男性はそれだけで有利だからチャンスを無駄にしないでね、と。そのときはピンと来なかったのですが…」

 

Wさん夫婦には、現在小学校に通う双子の娘さんたちがいます。

 

「小学校のPTA役員にクジで当たり、僕は広報誌担当に。学校近くの商店街へ取材にいくことになったのですが、あるご夫婦でやっているパン屋さんをたずねたとき、当然のように男性に名刺を渡して話そうとすると、店長は彼女ですと言われてけっこう驚いたんです。でも、よく考えたら別におかしいことじゃないですよね」

 

これをきっかけに、自分にも無意識に店長=男性というアンコンシャス・バイアス(思い込み)があったことに気づき、入社当時の上司の女性の気持ちもやっと理解できたといいます。

 

「娘たちが将来、女性というだけで一人前に扱われなかったり、仕事で不利な立場になったら…と考えると、世の中なんとかしないと、という気持ちになります」

 

と話してくれました。

男性・女性それぞれの本音もチラリ

ただ、よく話を聞くと、こんな声もあります。

 

「仕事でもPTA役員でも、責任者や代表者になると、そちらに精神的にも時間的にもコミットしないといけなくなりますよね。無責任なことはしたくないので…。夫は仕事が忙しくてあまり頼れず、けっきょく後まわしになって犠牲になるのは子ども。代表になること自体はいいんですけど、それを思うとできれば避けたいんです」(Aさん・35歳・5歳児と3歳児のママ)

 

「子どものことの決定権は完全に妻が代表ですね。一緒に習い事や治療の説明を聞きに行っても、先方担当者からは、まるで父親はそこにいないかのような扱いです(笑)」(Fさん・39歳・4歳児と0歳児のパパ)

 

「男性だからといって、いつも代表となってすべての責任を取るべき…というのも違うと思います。リーダーシップのある女性や、サポートが得意な男性もたくさんいるのだから」(Mさん・32歳・小学1年生と2歳児のパパ)

これからの時代、子どもにどう伝えていくべき?

令和の時代、女性だけではなく男性も「性別で役割が固定化される社会はおかしい」と感じる人が増えているはず。

 

今から17年前、日本が海外と比べて女性管理職が極端に少ないことから「202030(2020年30%)」という目標が掲げられました。

 

以下のような内容です。

「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位※に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」 ※「指導的地位」の定義 (1)議会議員、(2)法人・団体等における課長相当職以上の者、(3)専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者とする(平成19年男女共同参画会議決定)

しかし、あまりにもこの計画が進まないため、

 

「2020年代の可能な限り早い段階で」 「2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」

 

と見直される結果になりました。

 

原因は色々ありますが、その1つと考えられているのが、今回取り上げた「アンコンシャス・バイアス」です。

 

今年、公益財団法人 21世紀職業財団が従業員100人以上の企業に勤務する男女正社員に行ったアンケート調査では、

 

「重要な仕事は男性と女性どちらが担当することが多いと思いますか」

 

という問いに対して、男性の5割・女性の6割が、

 

「男性が担当することが多いと思う」

 

と答えたそうです。

 

この回答はここ数年間変わることがなく、女性ではむしろ増えているといいます。

 

これには、出産などのライフイベント時に父親が育休を取りにくいことや、子育てのため時短勤務や定時退社せざるを得ないのは母親が多いこと、「マミートラック」問題などが影響しています。

 

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しかしそれらの原因は、いぜん社内に「アンコンシャス・バイアス」が存在するからではないかと考えられているのです。

 

2030年やその先もこういった状況が続くのかどうかは、これから成長していく子どもたちにかかっているといえます。

 

しかし、親をはじめとした周りの大人たちが固定された性別の役割に基づいて発言・行動しているかぎり、子どもたちはそれを吸収してしまい、なかなか「責任者や代表者はやっぱり男性」という無意識の思い込みから開放されないのではないでしょうか。

 

子どもたちにそんな刷り込みをしないよう、まずは自分自身が抱いた小さな違和感を見逃さず、そこにある「思い込み」に気付くことから始め、少しずつでもそれを周囲に広げていけるといいですね。

 

文/高谷みえこ

参考/厚生労働省「男女雇用機会均等法成立30年を迎えて」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/dl/15d.pdf
女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
公益財団法人 21世紀職業財団「男女正社員対象ダイバーシティ推進状況調査(2020年度)」 https://www.jiwe.or.jp/research-report/2020