2020年5月25日、全国の緊急事態宣言が解除され、国の「新しい生活様式」にもとづいた経済・社会活動や学校が再開されました。
同日、日本小児科学会は『2歳未満の子どもにマスクは不要、むしろ危険!』という声明を発表し、赤ちゃんや2歳未満の子どもがマスクをつけるのは窒息などコロナウイルス感染とは別の危険があるため、マスクを使用しないように注意喚起しました。
しかし、この声明の周知が進んでいないのか、赤ちゃんや小さい子を連れて外出したときに周囲の目が気になったり、実際にマスクをつけるよう求められて困っているママも増えているようです。
そこで今回は、日本と世界で赤ちゃんや幼児のマスク使用はどのように見られているのか、ママたちが遭遇した子どものマスクにまつわる体験談、マスクをせずに感染を予防する方法、「マスク警察」への対策などを紹介します。
世界的に「赤ちゃんにマスクは危険」との見解
新型コロナウイルスの流行が知られ始めた当初から、
「赤ちゃんはマスクをしても嫌がって外してしまったり、気になって顔を触るから逆効果…」
というママたちの声は多くありました。
しかし5月25日に日本小児科学会が発表したのは、逆効果どころか、命の危険もあるため「赤ちゃんにマスクを使わないで!」という内容でした。
参考:
日本小児科学会「2歳未満の子どもにマスクは不要、むしろ危険!」
その理由として、現在、次のようなリスクがいわれています。
- 赤ちゃんは大人より気管が狭く、マスクで酸素不足になりやすい
- 酸素が不足すると呼吸回数が増し心肺に負担がかかる
- よだれやミルクの吐き戻しでマスクが濡れて窒息する可能性
- 鼻水やたんがのどにたまって窒息する可能性
- 熱の拡散が悪くなり熱中症になる可能性
体の小さい乳幼児は、上記すべてが急速に進行しやすいうえ、異変が起きても自分でマスクを外したり、言葉で伝えることができません。
また、マスクで顔色や唇の色・表情などが分かりにくくなり、発見が遅れる危険性もあります。
この見解は日本だけのものではなく、アメリカでも、CDC(米国疾病予防管理センター)が以下のような注意喚起をサイトに掲載しています。
Cloth face coverings should NOT be put on babies or children younger than 2 because of the danger of suffocation./窒息の危険性があるため、2歳未満の赤ちゃんや子どもにはフェイスカバー(マスク)を使用しないでください。
世界的な大手通販サイトも、0歳から3歳を対象としたマスクは現在販売を中止しているそうです。
ママたちに聞いた「体験談」と「心配なこと」
緊急事態宣言解除と前後して、テレビ番組などで国の掲げる「新しい生活様式」がくりかえし紹介されました。
その中に「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」という項目があります。
しかし当初、「2歳未満の子どもは例外」「乳幼児はマスクをするとかえって危険」ということをあわせて紹介するケースが少なかったため、子どもがいない家庭ではこのことを知らない人や印象に残っていない人が多いと思われます。
すると、子どもにマスクをつけさせずに外出したときや買い物中などに、ママたちが、
「どうしてマスクをさせないのか」
という目で見られることも。
実際に子育て中のママたちに、マスクにまつわる体験談を聞いてみました。
「保育園でとびひになってしまったので土曜日に皮膚科に行きました。夫と私はマスクをして、1歳の娘はマスクなし。娘の感染も心配だし、娘から待合室の他の患者さんにうつしてもいけないので、交代で外に連れ出しながら順番を待っていたのですが、高齢の夫婦が、なんで子どもにマスクさせないんだ、若い親はこれだから…みたいなことを話しているのが聞こえてきました」(Fさん・35歳・1歳児のママ)
「うちの近所のスーパーは、入り口にマスクの着用をお願いしますと書いてあるんですね。高齢者や女性に加え小さい子もマスクをしているイラストつきで。この間、すいている時間帯に1歳の子をベビーカーにのせて買い物していたら、年配の女性客に、お子さんにマスクさせてね、ルールですよって言われて。その時は自信がなかったのですみませんといって急いでレジを済ませて店を出たのですが…やっぱり違いますよね?!事実と違うポスターを貼らないでほしいです」(Eさん・29歳・1歳児のママ)
スーパーに子供を連れていくことに関しては色々な意見がありますが、一緒に留守番できる家族がいる人ばかりではなく、ネットショッピングで必要な食材や日用品が完璧に揃うとも限らないので、「連れていかなければいい」というわけにもいきません。
関連記事:「スーパーに子連れで来ないで」「できるならそうしてます」それぞれの事情
赤ちゃんや乳幼児を感染させない対策とは
ママたちからは「リスクは分かったけど、マスクなしでは感染も心配…」という声もあります。
「現在育休中で、もうすぐ子どもが6ヶ月になります。まだあまり動きは激しくないので短時間ならマスクはできるんですが、呼吸の妨げになるから危ないと聞いて。毎日バタバタしていて、急に今夜使う味噌がない!なんてこともあり、まったく連れ出さないわけにもいかないし…かわりに感染リスクを下げる方法は何かあるのでしょうか」(Kさん・31歳・0歳児のママ)
現在、マスクができない年齢の子どもにできる新型コロナウイルス感染予防には、次のような対策が推奨されています。
社会的距離を取る
他の人と2メートル以上離れ、飛沫が飛ばないようにします。抱っこひもでママやパパと向かい合わせなら、比較的ほかの人との相互飛沫感染は避けられるので、保護者がきちんとマスクをしていればOKとされています。
こまめに手をきれいにする
赤ちゃんや小さい子は、目や鼻を触らないように言い聞かせることが難しく、指をくわえたりすることも頻繁です。
手についた飛沫が目や口に入らないよう、こまめに手を洗う、消毒するなどの対策を。
消毒液のアルコール分は比較的すぐに揮発するといわれていますが、次のような対策を取っている人もいます。
「この子は敏感肌なので、外出時、アルコール消毒をしたあとノンアルコールのウエットティッシュで手を拭くこともあります」(Hさん・31歳・0歳児のママ)
新生児から使えるフェイスシールドも
タイの産院で、母子が帰宅するときのために新生児専用のフェイスシールドを配布しているというニュースが話題になったのを覚えている人もいるかもしれません。
青森県鯵ヶ沢町でも、赤ちゃんのいる世帯へ、ビニール素材のフェイスガードがついた帽子を配布しているそうです。
国内でもフェイスシールドやフェイスガードを製造するメーカーは増えています。今後、安全性が保証された製品が開発されれば、自分で外してしまう前の年齢の赤ちゃんには有効かもしれません。
ただし、衛生面などの点から長時間の使用は控えるようにとされています。
家族や保育者の感染予防もしっかりと
今回の日本小児科学会の発表の背景には、世界各国の子どもの新型コロナウイルス感染状況を分析した結果、次のような特徴が分かってきたこともあるようです。先の発表資料では、以下のように述べられています。
・子どもが感染することは少なく、ほとんどが同居する家族からの感染である ・子どもの重症例はきわめて少ない ・学校、幼稚園や保育所におけるクラスター(集団)発生はほとんどない ・感染した母親の妊娠・分娩でも母子ともに重症化の報告はなく、母子感染はまれです
また別の調査では、子どもは感染してもウイルスの排出量が少なく、子どもから大人へ感染させるケースは非常に珍しいことが分かっています。
つまり、外で買い物中にマスクをしなかったことが原因で感染する/させるよりも、長時間一緒にいる大人が感染させてしまうことに注意して、まずは、引き続き周りの大人がしっかりと感染予防することが重要というわけですね。
おわりに
少し前には、感染予防に留意しつつ子どもを広い公園で遊ばせているだけでも苦情を言う「自粛警察」が社会問題化しました。
公園で遊べないのも困りますが、乳幼児のマスクに関しては、命に関わることだけに、苦情を言われてもはっきりとマスクが使えない根拠を示したいもの。
もちろん、不要不急の用事で子どもを人混みに連れていくのは避けるべきですが、やむを得ないときのため、冒頭で紹介した小児科学会の案内を印刷したり、スマホに保存して見せられるようにしておくのも1つの手かもしれません。
よく行く公共機関や待合室などで苦情を言われた…という経験があるなら、スタッフにお願いして貼りだしてもらってもいいのではないでしょうか。
子どもを守り、周囲も安心できる環境づくりを社会全体で急ぎたいですね。
文/高谷みえこ
参考/公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY「乳幼児のマスク着用の考え方」 http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=117
CDC(米国疾病予防管理センター)Coronavirus (COVID-19) frequently asked questions(コロナウイルスに関するよくある質問) https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/faq.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fcoronavir#COVID-19-and-Children
厚生労働省|新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html