旦那さんとの相性の良さを語る宮下さん

 

—— 仲がいいけれど分かり合えない。でも相性はいい、なるほどです。

 

あさのさん 

宮下さんはご家族で一年間、北海道に山村留学されてますが、相性がよくなかったら、北海道で一緒に暮らそう、って言われても、きっとついていかないですよね。

 

宮下さん 

今でも北海道の山の中で暮らしたのは理屈じゃなかったと思っています。でも、不思議なんですが、夫と二人でやってきたことに後悔したことはひとつもなくて、全部楽しかったって思っています。これからも楽しく生きていける謎の自信があります。10年日記に当時の心境や「子どもが熱出しているのに帰ってこない!!」って愚痴のようなことも書いてあるけれど、記憶って便利なもので嫌なことって都合よく忘れているんです。私だけかもしれないけれど、記憶が勝手に改ざんされて幸せな感じに上書きされているんですよね(笑)。

 

あさのさん 

『静かな雨』収録の短編「日をつなぐ」に出てくるワンオペの話とかも、あの後どうなるんだろうって思っていたけれど、今のお話を伺うと、幸せな結末になっている感じですね。

 

宮下さん 

そのときの気持ちで書いているから、今読んだら書いたときの気持ちとは違う受け止め方になると思います。書いた本人ですら大変だったことを幸せな記憶で塗り替えちゃうくらいだから(笑)

 

—— 感情や環境で受け止め方が変わるのも本の魅力のひとつですよね。

 

宮下さん 

そうですよね。あのときは、幼い子どもたちを抱えて、ひたすら自分の気持ちを物語に変換していた感じはありますね。

 

「宮下さんの子どもになりたい!」と語るあさのさん

 

あさのさん 

でも『静かな雨』のときから共通する世界観を感じます。言葉で表すのはすごく難しいのですが“コツコツしている”というか。宮下さんの作品に登場する人でいうと、たい焼き屋さんにしても、ピアノの調律師にしても、コツコツ何かを突き詰めて、やがて自分なりの哲学に行き着く気がするんです。

 

私で置き換えると例えば、ナレーションの仕事などは、普通の人が意識しないようなところを掘り下げたりこだわったりして、とても地味な作業なんですよね。自分のやっていることに意味があるのか、こだわりが伝わるのかなんて思うこともあります。コツコツやることがつまらなく感じてしまうことだってある。だけど、宮下さんの作品を読むと、コツコツ生きること、毎日の積み重ねは地味だけれど、どんなルートを辿っても何か行き着く先に哲学があるように思えてきます。なので、仕事に疲れたときには特に読みたくなるんです。

 

宮下さん 

私の小説があさのさんの役に立っていると思うとうれしいです。言われてみれば、コツコツしている裏方の人を書くことが多いですね。自分のテンポで生きていく人が好きだから、そういう人を主人公にするのかもしれないです。私の本を読んで心の平穏を取り戻してくれるなら、そのためだけに書きたいと思えるほど、うれしい言葉です。

 

あさのさん 

伝えるチャンスがないから届いていないだけで、そんな風に励まされている読者はいっぱいいますよ。私のように宮下家の4人目の子どもになりたいと思って読んでいる方はたくさんいるはずです。

 

宮下さん 

ぜひなってください!

 

あさのさん 

なりたいです。優しい旦那さんと、冷静に母に突っ込む子どもたち。すごく素敵な家族だと思います。

 

宮下さん 

家族で一番ダメダメな人は私なんです(笑)。でも自分で言うのもなんだけど、子どもたちは、本当に面白い子たちに育ってくれたと思っています。夫ともよくそういう話をしています。「あんなふうに育ってくれたのは、あなたのおかげ」って感謝しながらも、心の中ではお互いに自分のおかげも多分にあるなんて思ったりして(笑)

 

あさのさん 

あははは。でも、結果素敵な家族ってことです。