小学生の苦手な教科ランキングで、毎年のように1位となる「算数」。

 

文系・理系と、その子によってある程度得意分野と苦手分野が分かれるものですが、小学校低学年でほとんどテストの点が取れない、九九がまったく覚えられないなど、どうしても算数だけが授業についていけない場合は、場合によっては学習障がいが隠れているかもしれません。

 

今回は、算数の分野での学習障がいの特徴や見極め方を解説、親としてできるサポートは何かを考えていきます。

算数分野での学習障がいとはどんなもの?


まず、「学習障がい」について簡単に解説すると、「知的な面での発達に遅れはなく、特定の学習だけに困難がある状態」をいいます。

 

・文字を読む ・字を書く ・数や計算

 

特に上の3つの分野での困難を抱えた子が多く、文字の読み書きに関する障がいは「ディスレクシア」、数に関する障がいを「ディスカリキュア」といい、日本語では「計算障がい」「算数障がい」と訳されています。

 

また文字の読み書きに障がいがある子の6割は、算数分野の症状も見られるといいます。

 

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これらは本人や親の努力不足ではなく、生まれつきの脳の機能からくるもの。

 

現在の医学や脳科学でも、まだ算数障がいの詳しいメカニズムは完全に解明されていないそうです。

 

ただ、算数とひとくくりに言っても次のようにいくつかの要素があり、その子によって1つだけ、または複数が該当します。

 

  • 数の処理…耳で聞いた数字の「1」と、紙に書かれた「1」、具体的な数(「1個の消しゴム」など)がそれぞれ正しく認識できるかどうか
  • 数の概念…1から10までの数字の並びや数の大小、10円と10000円の桁の違いなどが理解できるかどうか
  • 計算…身近な数の計算(5+5など)や、繰り上がりの足し算、大きな数の筆算などができるか
  • 数的推論…文章問題を読んで式を作ったり、グラフなどを使って数のイメージができるか

 

その子によって比較的理解できる分野と大きな困難のある分野があり、困難の程度も異なります。

 

イギリスにある算数障がい研究センターのトニー・アトウッド氏は、2012年、8歳~18歳の300人にオンラインで検査を受けてもらい、その結果をもとに以下のような算数障がいの分類も考案しました。

1:簡単な足し算や引き算程度しかできず、算数に強い苦手意識がある

・簡単な四則計算(足し算・引き算・掛け算・割り算)までがせいいっぱいで、分数など、同年代の90%以上の子が解ける問題が分からない ・適切なサポートを受けてこなかったため、算数に強い苦手意識があり、従来の教え方をいくら頑張ってもなかなか理解できない

2:算数に大きな困難と苦手意識を感じ、苦労して対処している

・算数の基本的な仕組みを理解し、小学校の算数にギリギリ対応できる程度にはついていけるが、非常に苦労が大きく時間もかかる ・自分が算数・数学ができないことに強い劣等感や不安を持っている

3:時間の概念が分からない

・24時間の時計が読めなかったり、「5分」と「1000年」がそれぞれどのくらいの長さなのかイメージできない ・短期および長期記憶が不得意だったり、物事を時系列で順序だてて考えられない

4:連続した数字の扱いができない

・数列を短期記憶から長期記憶に移動することが苦手で、電話番号などの並んだ一連の数字が覚えられない ・かっこつきの計算など、一方の計算結果を覚えておきつつ、もう一方の計算を行い合計する…という計算がうまくできない

5:数の概念を現実世界と結びつけられない

・数字を読み上げることはできても、全部でいくつかを答えられない ・「2/1」などの分数の概念が理解できず、機械的な手順でしか計算ができない

算数が苦手な子供に対して親としてできるサポートは?


算数の学習障がいは個人差が非常に大きいため、早い時期に発見されることもあれば、「算数の苦手な子」として気付かれないまま卒業し、大人になっても苦労するケースもあります。

 

特に算数障がいの子の特徴が表れやすいのは次のようなタイミング。

 

  • くり上がり・くり下がりのある計算ができない
  • 九九が覚えられない
  • 分数の計算ができない
  • 文章問題が全く解けない

 

小学校では、4年生頃から、抽象的な概念を扱う算数の単元が増えてくるため、学習障がいがなくともつまずく子が多く、「10歳の壁」とも言われています。

 

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算数や読み書きを根気強く教えているはずなのに、どうしても理解できていない…と感じたら、まずは担任の先生や学校の発達支援担当の先生に相談することから始めるのが良いでしょう。

 

必要に応じ、医療機関や支援の窓口へとつないでもらえるはずです。

 

学習障がいは生まれつきの脳の機能に由来するものなので、完全に症状をなくすことはできませんが、適切な対応によって数や計算の理解度を上げることは可能です。

 

叱ったり非難してもできるようにならないばかりか算数を嫌いになってしまう恐れがあるので避け、専門家のアドバイスを聞きながら、その子に最適な方法を選んでいくことが大切です。

 

2016年施行の「障害者差別解消法」では、発達障がいを含む障がいを抱えた子どもの学習に際しては、不利が生じないよう環境整備や合理的な配慮をすることが義務付けられました。

 

ある学校では、その子の特性に合わせ、ノートに自分で問題文を書くかわりに、大きな字のプリントを貼ることで負担を軽減したり、筆算を身につけるため、一桁も含め計算は全て筆算にするなどの合理的配慮を行っています。

 

学習障がいが分かったら、学校や先生とは常に連絡をこまめに行い、上記のような学習環境を整えていきましょう。

その子の特性にあった関わりや工夫を


冒頭の小学生の得意・苦手教科で、算数は苦手な教科1位でしたが、実は同時に「好きな教科」「将来役立つと思う教科」でも1位だったそうです。

 

将来、仕事を進める上で、算数で学ぶ論理的な思考(ロジカルシンキング)は欠かせないものとなります。

 

その子の特性に応じ、100点満点がとれなくても「算数は楽しい」「嫌いではない」と感じられるような働きかけや工夫をしていきたいですね。

 

文/高谷みえこ

参照/教育新聞社 2019年2月「算数、国語、体育がトップ3 好き・嫌いな教科の両方で」

The Dyscalculia Centre:Tony Attwood「Five ways to understand dyscalculia」

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所「合理的配慮の実践事例データベース」