「子どもが生まれたら、この仕事は無理」と思っていたけれど

はらゆうこ
強風や極寒など、調理に適さない環境でも現場ではストーリーに沿った料理をタイミングよく出すことが求められる

── その後フリーとして独立され、プライベートでは離婚を経て、現在の旦那さんと再婚されます。結婚や出産に対して迷いはありませんでしたか?

 

はらさん:私は仕事を一人で抱え込んでしまうタイプだったので、「一人きりではいつか限界が来る」と感じ、独立後に法人化してスタッフを雇う体制を整えていました。それでも、いまの夫から「結婚して子どもが欲しい」と言われたときは、思わず「私じゃないほうがいいんじゃないかな」と答えてしまったんです。

 

── それは仕事の多忙さもあって?

 

はらさん:それもありますし、夫は私より年下なので、子どもを絶対に欲しいと思っているなら、相手は私ではないほうがいいんじゃないか、という気持ちでした。でも夫は「全然、大丈夫だよ」みたいな反応で、実際に40歳で出産したときも子育てを一緒にやってくれましたね。

 

── かつては「子どもができたらこの仕事は無理」と考えていたはらさんですが、その葛藤はどのように乗り越えたのですか?

 

はらさん:考え方を変えていかないと、子育てと仕事を並行してはできないなと思いました。保育園のお迎えの時間が迫ったとき「あと少し時間があれば、最後まで現場を見られたのに」と少しネガティブになったこともあります。

 

ただ、子どもがいないころも、私は仕事を掛け持ちしていました。ひとつの現場を途中で抜けて、次の現場へ行くこともあったんです。その現場のひとつが子育てに変わっただけで、「時間が来たら次へ行く」のは同じだな、と考えるようになりました。

 

「子どもがいるから、あの仕事ができなかった」と考えていくと、自分も家族もつらくなるので、「仕事と子育てを並行している」ととらえたほうが、私には気が楽でした。

 

── 同じ映像業界で働く旦那さんの言葉によって、ハッとさせられた出来事もあったそうですね。

 

はらさん:保育園の保護者会で自己紹介をするとき、「私は不規則な仕事をしておりまして、ご迷惑をおかけするかもしれません」とお話ししたことがあったんです。そうしたら帰宅後、夫から「『私は他のお母さんたちより忙しくて特別なんです』というニュアンスに聞こえて嫌だった」と指摘されて。

 

そんなつもりはなかったんですけど、冷静に振り返ってみると、心のどこかでそう構えてしまっていたのかもしれないと反省しました。昔の私は仕事至上主義で、「やりたいならやる、やれないなら諦める」という白黒つけた考え方しかできませんでした。でも、自分が親になってみて初めて、仕事への意欲だけではどうにもならない事情があることや、誰もがそれぞれの生活や制約を抱えながら懸命に働いているんだということが、身に染みてわかるようになりました。

 

── 一度現場を離れたあの時間も、決して無駄ではなかったのですね。

 

はらさん:ゼロから厳しく育ててくださった赤堀先生には、本当に感謝しています。ただ、嫌で辞めたわけではないからこそ、あそこで離れなければ、家庭との関わり方や、ほかの働き方を考え直せなかったと思います。飲食店で働いたことも、私には必要な時間だったんだと、今は思います。

 

── そうした経験を経て、今、一緒に働くスタッフに対して意識していることはありますか。

 

はらさん:弊社には子育て中の社員もいれば、フリーランスとして手伝ってくれる仲間もいます。それぞれの家庭環境や事情に合わせて、勤務時間を固定にしたり、土日を休みにしたりと、対話を重ねながら柔軟にシフトを組んでいます。

 

子どもがいるからといって特別扱いするわけではありませんが、お迎えの時間に「すみません」と申し訳なさそうに帰る必要はまったくありません。何より、若いスタッフたちに「子どもができたら、この仕事は諦めなきゃいけないんだ」とだけは絶対に思ってほしくないんです。

 

取材・文:石野志帆 写真:株式会社Vita