トラックと衝突の大事故も翌日コンサートに出演

東儀秀樹
今も車やバイクが大好きで息子さんとドライブを楽しむことも多いそう

── その後、大きな交通事故にも遭ったそうですね。

 

東儀さん:30代のころです。コンサートの前日に車を停めていたら、後ろから居眠り運転のトラックが時速100キロくらいの猛スピードで突っ込んできて。首の骨が折れる寸前の重体で、車のハンドルもぐしゃっとなって胸に食い込みました。自力では脱出できないくらいの事故でした。

 

── 事故の直後、意識はあったのですか? 

 

東儀さん:事故に遭った直後は、指先も動いているし息もできているから、「明日のコンサートは出られるだろう」なんて思っていました。救急隊の人が窓ガラスを割って、鉄板を差し込んで滑り台を逆戻しするみたいに僕の体をすくい上げてくれたんです。むしろその技術に「すごいなあ」って感心していました(笑)。

 

── そこから入院せずにコンサートに出演されたと聞いたのですが、本当ですか?

 

東儀さん:本当です。事故に遭った直後はとにかくもう首が痛くて、息をするにも痛くてしょうがなかったから、緊急入院もやむなしという状態でした。でも、心のなかでは次のコンサートをやる気満々でした。病院から「無理です、とても許可できません」と言われたのですが、「とにかく家で絶対安静でいるから」と約束し、入院を断って帰宅しました。その翌日にはコンサートに出演する気で会場へ行っちゃったんです(笑)。

 

── 大事故の翌日にコンサートとは…。体の痛みは大丈夫だったのでしょうか?

 

東儀さん:事務所のほうではコンサートは中止の方向で話が進んでいたのですが、僕は「本当に動けなくなったらキャンセル」と考えていました。ステージに上がって、「もうこれ以上吹けない、動けない」と僕が倒れたら、そこからがキャンセル、という感じでね。僕はできる限りのことをしないと気がすまない性格なんです。

「時間は巻き戻らない。だったら1秒で笑い話に」

── 普通なら、事故の痛みやつらさから精神的にも落ち込んでしまうと思います。

 

東儀さん:事故に遭ったことを「どうして」と悔やんでわめいても、時間って巻き戻すことができないじゃないですか。止まって後悔していても、やり直しはできない。それなら、そこから最短距離や最短時間で、今より楽しい気持ちになれる方向を見るしかない。

 

この事故のときも、みんなが「コンサートは中止だ」と思っているところに、怪我をして首にコルセットをした状態で僕が現れたら、スタッフが目を丸くして驚くだろうな。「その顔を早く見てみたいな」と考えていたし(笑)。そういう想像をするだけで、気持ちが落ち込むよりワクワクしちゃう。それが僕にとっては大事なんです。

 

── 事故のあとに無理をすれば、後遺症が残る可能性もあります。その心配はなかったのでしょうか。

 

東儀さん:確かにその可能性はありますし、人には勧められないことですが、僕の場合は「あのとき何もしないで安静にしていれば、もっと元気になれたのに」と考えるより、そのときにできる限りのことをやるだけ。それが僕の生き方なのだと思います。

 

人って、嫌なことやつらいことがあっても、何年かすると人に笑い話として話すじゃないですか。「あの事故のときは大変だった」とか、「死ぬかと思った」って。何年か経てば笑い話にできるのだったら、それに年数をかけるのはもったいない。僕の場合、それが1秒ですんでしまうって感じなんです。「どうせ笑い話にするんだったら、今からしてやるよ」って。

健康のための努力は「何にもしていない」

── 67歳になられた今もそんなふうに前向きなのですね。こうしてお話ししていても若々しさを感じますが、健康のためにしていることはありますか?

 

東儀さん:それが、何にもしてないんです(笑)。食事にも特に気を使わないし、ジムに行ってトレーニングするような面倒くさいことも大嫌い。努力が苦手で、ラクに生きていきたいと思っているところがあるので…。ファストフードやカップラーメンも好きでよく食べますし(笑)。もちろん、そればかりではありませんが、いろんな料理を幅広く楽しんでいます。

 

── がんや交通事故など命に関わる経験をされたからこそ、「今、この瞬間」を大事にされるようになったのかなと感じます。

 

東儀さん:いえ、それがあったからではないと思います。そうなったときにすでにそんな考えだったので、おそらく根っからの楽天的性格なのだと思います。ただ、自分ならではの表現を大事にする仕事をするにつれて、どんどんその価値観が濃くなっています。

 

「どうしてこんなことになったんだ」と考えても、起きてしまったことは変えられない。だったら今からできることは何だろうと考えます。僕は精神的にじっとしていないたちというか…面白いことを求めていつも考えて、ワクワクして。「退屈だな」と思っていることが、まずないんです。それが結果的に身体にもいい影響を与えているのかもしれません。

 

取材・文:池守りぜね 写真:東儀秀樹