15時間労働も「大切な充電期間だった」

── 多様な人々と出会い、人としてまた表現者としても幅が広がったのではないでしょうか。実際に女将としてはどのような日常を送っていたのですか?
高嶺さん:宿泊のお客さんがいる場合は朝7時から朝食の準備をして、午前は食材の買い出しに行き、昼のランチ営業。それから午後のチェックイン対応をして、夜の飲食店営業を21時半過ぎまで行って、精算やレジ業務をしてディナー営業を終えるのが22時前。週休は1日ありましたが、その日に宿泊予約が入るとチェックイン対応に行くので、あまり休む暇なく忙しく働いていました。
でも、仕事内容はとても好きでした。料理を出して、デザート作って、コーヒーを出して、おしゃべりして…すごく楽しかったです。ただ、コロナ禍が続き、休業期間が長く生じたり、会社の経営方針とあわない部分が出てきたりしたので、翌年、退職しました。
── 振り返って、女将として働いた経験は高嶺さんにどのような影響を与えていますか?
高嶺さん:自分自身を「舞台・芸能界」という枠のなかにとどめることなく、怖がらずに未経験・未知の世界である「女将業」に挑戦したことで、世界にはもっと楽しくて面白いことがたくさんあると気づきました。これは芸能界に戻ってから、いっそう楽しく充実した日々を過ごせていることにつながっていると思います。また、女将業は勤務時間が長く、やることが多くて忙しいものの、違う意味ですさまじい集中力とパワーを必要とする舞台に立つことに疲れきっていた私にとっては、大切な充電期間でした。
引退当初、舞台復帰はいっさい考えていませんでしたが、引退から復帰までの期間がちょうどコロナ禍と重なっており、続行していたとしても公演の少なかっただろう時期に、役者としての貴重なお休みをいただいたように感じています。
取材・文:岡本聡子 写真:高嶺ふぶき