「ゼロから向き合ってみよう」再起の理由
── バレーボールから離れたものの、チームを辞めることはできなかったそうですし、竹下さんのことを引き留めたいという方もいたのではないでしょうか。
竹下さん:当時は批判の声が大半でしたが、「今、辞めるときじゃない」「絶対に戻ったほうがいい」と声をかけてくださる方もいました。最初はそういう声はまったく耳に入らず、何を言われても断り続けていたんです。ところが、JTマーヴェラスの一柳監督が私に何度も会いに来て、バレーボール選手としての伸びしろを信じているから「チームに必要だ」という話をされました。
バレーボールから裏切られたような気持ちでいたのですが、一方で、本気で自分のことを思って一生懸命、コートに戻そうと動いてくれた方たちもいて、自分を必要としてくれている人がクリアになっていったんです。
「この人たちは信じてもいいんだ」と、心がだんだんと開けるようになっていきました。あとはやはり、このままバレーボールから離れてしまったら、オリンピックへの未練はずっと残るだろうという思いがありました。
最終的に戻ろうと思ったのは自分の意思です。「人に言われたこと」を理由にすると逃げ道ができてしまうので、決断をするなら絶対に後悔がないよう、自分で決めようと思っていました。当時JTマーヴェラスは下部リーグに所属していたのですが、「もう一度、私もゼロからバレーボールに向き合ってみよう」と、再スタートをきることにしたんです。
キャプテンとして活きた「人を見る目」
── JTマーヴェラスに移籍後、チームは1年で一部リーグに昇格。竹下さんは2年越しに日本代表に復帰し、アテネ、北京、ロンドンオリンピックの3大会に連続出場し、キャプテンとしても活躍しました。実況で「世界最小最強セッター」と称賛され、注目を集めました。数年で目まぐるしい変化が起きましたね。
竹下さん:振り返ってみても、この数年の周囲の反応の変化はすごかったなと思います。ただ、人間不信は抜けきれず、一歩引いて人を見るようになってしまって。当時、眞鍋監督から「まず人を疑ってかかるよな」と言われたくらいです(笑)。
── 大変な思いをされたものの、人を見るという意味では、キャプテンとしての素養が培われたようにも感じました。セッターのポジションもそうですが、キャプテンは全体を見渡す視野の広さが求められると思います。
竹下さん:一時期、叩かれましたが、物事の本質を見極めることや、上辺だけじゃないその人の本心を知ろうと思うようになったのは、結果としてよかったのかもしれません。でも当時の私は本当に警戒心が強くて、「余計なことは言わないぞ」と頑なに言葉を発さずにいたので、メディアの人からは扱いにくい、怖い存在だったと思います(笑)。
一方で、アイドルのような盛り上がりをみせる競技はスポーツとしてしっかり見てもらっているのかなという疑問も当時は多少ありました。たくさんの方に応援してもらえたことはありがたかったのですが、日頃、競技者として努力を重ね、パフォーマンスを磨き上げている姿を見てきているので、そこにスポットが当たらないのはどうなんだろうという疑問があったのは正直なところです。
立場が変わって、今は解説者として伝える側の気持ちもわかるので、メディアがどう見せていくかについても理解はできます。当時のブームも致し方ないなとも思います。
指導者として、母としての今
── ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得後の2013年に引退し、その後は指導者や解説者としてバレーボールに関わっています。過去の経験が活きていると感じることはありますか。
竹下さん:選手の指導をする際は、年齢が離れていると考え方も捉え方も違ってくるので、言葉のアプローチも含めてその人に合った効果的な方法を考えるようにしています。「バレーボールを学びたい」と思っている方はみなさん話を聞く姿勢がすでに出来上がっているのでいいのですが、大変なのは自分の子どもたちです(笑)。
うちはふたりとも男の子で、上は小5で、下は小3。勉強も頑張ってほしいのですが、特に下の子にはありとあらゆる角度から声をかけても効き目がないんです。兄弟で性格も違いますし結局、口出ししてしまうんですけど…。男性脳と女性脳の違いなのか、親だから息子たちにも甘えがあるんだと思いますが、いったいどうしたら効果があるんでしょうね。子育てを通じて常に学ばせてもらっていると感じます。
── 司令塔としてチームをまとめた竹下さんも、息子さんたちの子育てに苦労されていると聞いて親近感が湧きました。現在は、男子バレーボールがロサンゼルスオリンピックの出場権を獲得し、女子にも期待がかかっていて、バレーボールが盛り上がりを見せていますね。推し活で各地を回る人も多いと聞いています。
竹下さん:男子も女子も、バレーボールを好きでいてくださる方がたくさんいるのは本当に嬉しいことです。選手の原動力になるので、ぜひみなさんに推しの選手を作ってもらって会場に足を運んで応援していただけたらと思っています。横断幕に書かれた名前も選手からは見えていますし、声援の声もしっかり届いていますので、私を含めみなさんでバレーボール界を盛り上げていけたらと思っています。
取材・文:内橋明日香 写真:竹下佳江