「会社の制服捨てたから」妻なりの激励
── 育児119のために、当時勤めていた会社を辞められたそうですね。小さなお子さんを抱えての起業に、葛藤はありませんでしたか?
石黒さん:使命感でいっぱいだったので、迷いはなかったですね。ただ、当時はちょうど下の子の出産間際でした。妻に「なんで今なの?」と止められるのではと。実際、妻に打ち明けたら「1日考えさせてほしい」と言われて。
ただ、次の朝に妻から、当時の会社の制服を「捨てたから」と言われたんです。最初は何を言っているのか理解ができず、頭が真っ白になりました。制服がないと出勤できない。これは妻からの「会社員はやめて、その道でやっていきなさい」というメッセージだと気がついた時、この人は肝が据わっているなと心強く感じました。
── 奥さんからのエール、素敵ですね。
石黒さん:理解して、信じてくれた妻には感謝しかありません。なんとしてでも成功させて妻を安心させたいとも強く思いましたね。それで、「3年やって花が咲かなかったらあきらめて、安定した仕事について父親としての責任を果たす」と約束しました。ちなみに制服は捨てずに隠してありました(笑)。
「人を頼るのはよくない」支援サービスも頼れず
── 石黒さんは育休をとり、積極的に育児をしていたそうですね。ご自身は何か育児支援サービスに頼っていましたか?
石黒さん:いえ、実はまったく利用していませんでした。当時の自分たちには、育児支援サービスに頼るという選択肢がそもそもありませんでした。ベビーシッターや行政のサポートなども、存在としては知っていたかもしれませんが、「自分たちが使うもの」としてはまったく想像できていなかったんです。
子育ては家庭の中で何とかするもの、という感覚が自然とあって、誰かに助けを求めることや、外部のサービスを使うことまで考えが及びませんでした。だからこそ今振り返ると、「あのとき頼れる選択肢を知っていたら、もっと違っていたかもしれない」と思います。
── SNSに届くメッセージで孤立したお母さんたちの大変さを痛感したとおっしゃっていましたが、石黒さんも大変だったのではないでしょうか。
石黒さん:ひとり目のときには、深夜のミルクを妻と日替わりで担当していましたが、お互いに睡眠不足になり、精神的につらい時期が続きました。ふたり目のときには妻が腰を痛めてしまい、出産後の育児はほぼ私が担当していて。ひとりで2人の子どもを見ているとだんだんと追い詰められて自分の調子も悪くなり、「誰か助けに来てくれないかな…」とずっと思っていたんです。
子どもが生まれるまで、「育児は幸せなことだ」と私は信じていました。でも、自分が子育てをする番になって、「育児は幸せなことだけではない」と痛感しました。