大学1年時に訪れた介護実習の現場で宇井吉美さんが目の当たりにしたのは、「排泄介助」にまつわる職員や利用者の苦悩と葛藤でした。「おむつを開けずに中を見たい」。介護の切実な願いに応えるために、宇井さんは研究開発に没頭。10年もの歳月をかけて業界初の画期的な製品を生み出します。AIで現場の問題解決に挑んだ介護テック誕生の裏側に迫ります。
実習先で見た壮絶な光景と介護職員の葛藤
── センサーが捉えた「におい」「湿度」「温度」のデータから、AIが尿と便を検知する、画期的な製品「ヘルプパッド」を開発した宇井さん。学生時代に介護の現場実習で見た衝撃的な光景が開発に至る原点だそうですね。
宇井さん:中学時代に祖母がうつ病を患った経験から、「介護の負担を減らしたい」と、介護ロボット開発者の道を目指していました。大学の工学部に進学し、1年時に介護現場に実習に行ったのですが、そこで目の当たりにした光景があまりに衝撃的で。介護職員の方が2人がかりで利用者さんを押さえながら、お腹を手で強く押すんです。利用者さんは「ううううっ」とうめき声をあげ、抵抗しているのに、いっこうに手を緩めません。あまりに突然のことに、何が起きているのかすらわかりませんでした。
思わず泣きながら「ご本人が望んでいることですか!?」と尋ねたところ、「わからない…」と、思いがけない答えにさらにとまどいました。ただ、その後に職員さんから詳しい事情を聞き、自分の浅はかさを恥じることになります。私が目にした行動の背景には、「施設にいる間になんとか排便させてほしい」という、ご家族からの切実な願いがあったんです。
── 介護職員の方は施設にいる間に利用者の排便を促そうとしていたんですね。
宇井さん:はい。排泄は毎日のことで、自宅での排泄介助は介護する側もされる側も、心身ともに大きな負担がかかります。だからこそ、介護職員の方は対応策を検討し、ご家族も含めてケアをするために利用者さんに下剤を飲ませ、お腹を押して排便を促していたんです。
ただ、ご家族の切実な願いに応えようとするいっぽうで、利用者さんが望んでいるかわからないという迷いも抱えることに。重たい葛藤を背負いながら現場に立ち続けている介護職員の方の話を伺い、答えのない問いに立ち向かう姿にリスペクトが瞬時に湧き上がりました。