まさに「のぼせもん」(博多弁で、情熱の人)。「ラーメン一杯290円」を創業から50年間貫く福岡のラーメンチェーン「博多ラーメン はかたや」は、物価高騰が続くなか、なぜこれほどの激安価格を実現できるのでしょうか。同チェーンを手掛ける昭和食品工業の澄川誠社長は、「原価が上がったから値上げするのは、お客さんへのエゴでしかない」と断言。今の飲食業界のあり方に警鐘を鳴らしながら、一杯のラーメンで家計を支えるための「異常な」舞台裏を明かしてくれました。
物価高だから「値段を上げる」以外に策はない?
── 今や外食一回1000円の出費は当たり前です。ラーメンも例外ではありません。飲食店の多くが材料費や光熱費など原価の高騰を理由に、値上げに踏み切っています。そんななかで「はかたや」の一杯290円という価格は常識外れな気がしますが。
澄川さん:私からすれば、常識外れなのは多くの飲食店のみなさんのほうです。原価が上がったからと、当然のように販売価格に転嫁して値上げする。その考え方自体が間違っているんです。原価と売価に因果関係はない。原価が上がっても売価は上げず、利益を出すために知恵を絞るのが正しい姿勢です。にもかかわらず、原価を積み上げて売価を設定している。売価はお客さんとの関係性、すなわち市場原理によって成り立つものです。それを無視して原価が上がったから値上げするとのはお客さんを無視した行為であり、言い方悪いですけど、経営者の怠慢ですよ。
もっと言えば、売上を上げたいのが本音なわけです。ならば売上を上げる方法を考えればいいんですけど、その努力をせずに売価を上げれば売上が上がると勘違いしている。お客さんに対するエゴイズムの押しつけでしかないわけですね。言うまでもなく受け入れられず、次第に客離れを起こして商売が成り立たなくなる。実際、そんな状態に追い込まれている飲食店は少なくないでしょう。

── では、290円の価格はどのような観点で設定されたのでしょうか?
澄川さん:福岡に住む人間にとってラーメンは「ソウルフード」。誰もが気軽に食べられる“日常食”の位置づけです。そうした地元のお客さんのお願いに応えるのが、私たちチェーンのお店の役割だと考えています。
日常食とするには財布にやさしい価格でなければならない。安ければ安いほどお客さんは嬉しいので、可能な限り安さを追求する必要がある。一方で毎日のようにひんぱんに食べてもらうのだから、より健康的な食材でなければならない。また、安かろう悪かろうではなく、本格的で飽きのこない味を追求する必要がある。こうした観点で試行錯誤の末にたどり着いたのが「はかたや」であり、290円という価格でした。
理念のない経営は羅針盤のない航海と同じである——。私の座右の銘のひとつで、商売は理念や思いからスタートすべきです。