「怖い」が目を引く。風景化した注意喚起を打ち破る妖怪の力

── 深刻な現状を打破するため、大学、専門学校と連携してプロジェクトが始まったのですね。

 

平山さん:開始早々、学生さんからは「注意喚起のポスターは誰向けですか?」「足元のサインはみんな見ているんですか?」と非常に鋭い指摘をいただきました。そこで初めて、これまでの注意喚起が風景の一部として馴染んで、乗客のみなさまの目に留まらなくなっていたことに気づかされたんです。この「風景化」の問題を改善し、子ども目線で隙間の危険を伝えるために誕生したのが、スキマモリというキャラクターでした。

 

── なぜかわいいキャラクターではなく、あえて「妖怪」にしたんでしょうか?

 

平山さん:子どもはかわいいものだけではなく、お化けや少しダークな世界観にも強い関心がありますよね。その「こわいけど気になる」という好奇心を喚起することで、隙間の危険性を認知してもらえると、大阪市立デザイン教育研究所の学生さんたちが試行錯誤の末に生み出してくれたデザインです。

 

平井さん:当時2年生だった学生たちが、世の中に無数にいるキャラクターの中で埋もれないよう試行錯誤し、色使いや造形でインパクトをどう出していくのかこだわったそうです。

 

── たしかにひと目で忘れられない造形です。怖いだけでなくかわいらしい印象も受けますが、スキマモリは子どもの味方なんでしょうか?

 

平山さん:私たちからは断定していません。子どもをさらったり、食べたりする怖い存在ではありませんが、スキマモリと出会った子どもたち自身に「どんな物語があるのか」を想像してほしいんです。その想像が、結果として足元の隙間への意識を高め、事故防止につながるという狙いです。

 

── あえて想像の余地を残すのは、面白いですね。社内での反応はいかがでしたか?

 

平山さん:攻めたデザインに対し、当初は「全世代に愛されるキャラクターにすべきでは」という反対意見もありました。しかし、天王寺駅で実証実験を行うと、SNSなどで好意的な反響が広がり、乗客の方々の「かわいい」という声が私たちの背中を押してくれました。誕生から5年経った現在は、ポスターや足元の注意喚起のサインの掲示のほか、事故防止のための子ども向けワークショップも展開しています。