引退を決意した半年後に訪れた、5秒の奇跡

15年間漫画を描き続け、腰痛や十二指腸炎、腱鞘炎になるも…

── そのような大変な思いをしてまで、ずっと描き続けているのはすごいですね。

 

鉄拳さん:僕は2011年、仕事が激減して一度引退を吉本に伝えているんです。退社までの半年間に、偶然「ドタキャンした芸人の代わり」で描くことになったのがパラパラ漫画でした。吉幾三さんの名曲『俺ら東京さ行ぐだ』に合わせて描いた漫画が話題に。その後、企画でイギリスのロックバンド・MUSEの楽曲『エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部』をバックに「振り子」という作品を発表しました。

 

──「振り子」は夫婦や家族の愛を描いた作品で、その後映画にもなりましたよね?

 

鉄拳さん:テレビ放送された作品がYouTubeで一気に拡散されたんです。そうしたらなんと、MUSEから公式に「MVの映像として使いたい」とオファーまで来て。それまでに漫画家、プロレスラー、俳優といろいろな夢をあきらめてきて、さらには芸人も辞めようとしていた。役に立たないと思っていた経験が予想外の場面でいかされて、脚光を浴びました。当初はこんな未来、想像していなかったですね。

 

YouTubeの作品には、海外からもコメントが来ます。「オニオンスライス」というコメントに最初は「玉ねぎの薄切り?」と戸惑ったのですが、英語にくわしい友だちに聞くと、「作品を見て泣かされた」というホメ言葉だったみたいです。

 

── その後、奥さんと一緒に制作を続けられて。

 

鉄拳さん:はい。でも15年も描き続けると身体にダメージが蓄積し、腰痛や十二指腸炎にもなりました。妻も手伝ってくれたせいで腱鞘炎になってしまい…。今はもう、僕一人で1日8時間、5秒分を描くのが限界です。たくさんの人たちを感動させるための代償として、いろいろなダメージを負ってきました。