「若者は僕を知らない」忘却に抗うための再デビュー

── 最近では、大河ドラマに俳優として素顔で出演されるなど、活動を広げていますね。
鉄拳さん:昨年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺』では浮世絵師の役をいただきました。手元のシーンも撮りたいので、リアルに絵を描ける人を探していたようです。
── これからは漫画家以外の活動も増えるのでしょうか?
鉄拳さん:そうですね。今までは「鉄拳」を露出させず漫画家として活動してきましたが、最近、地元でイベントをしても喜ぶのは同世代以上ばかり。高校生は誰も僕を知らないんです。若者に知られていない、知っている人たちにも忘れられること、それが、なんだかとても寂しくて怖くて。 だからこそもう一度芸人として返り咲きたい、みんなに自分のことを知ってもらいたいと俳優のオファーも受けました。
ただ、仕事をいただける限りは、描き続けたい。でも同時に、新しい場所で「鉄拳」を知ってもらいたい。体はボロボロできついこともありますが、50歳を超えて、僕の新しい挑戦がまた始まっています。パラパラ漫画も芸人も、今後も挑戦していきたいです。
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身体を壊してまで描き続け、手にした世界的な評価。けれど、どれほど実績を積み上げても、目の前の若者に「誰、あの人?」と思われる寂しさは消えません。50歳を過ぎ、満身創痍の体で俳優という新しい場所に打って出るのは、過去の自分に頼らず「今の鉄拳」を知ってほしいという、切実な意地のように見えます。
積み上げてきたものを横に置いて、もう一度ゼロから自分をさらけ出す。そんな鉄拳さんの「格好悪くて、格好いいあがき」を、あなたはどう感じたでしょうか。
取材・文:酒井明子 写真・イラスト:鉄拳