「パラパラ漫画の現場は、まさに戦場でした」。1日8時間描き続けて、進むのはわずか5秒分。世界を泣かせた筆致の裏側で、鉄拳さんの身体は悲鳴を上げていました。身を削る日々に寄り添い、みずからも腱鞘炎になった妻。夫婦で分かち合ったのは、栄光の代償ともいえる消えない痛みでした。しかし、どれほど実績を積み上げても、今の若者に「あの人、誰?」と思われる寂しさは消えません。過去の貯金で生きるのではなく、今の自分を知ってほしい。50歳を過ぎてなお、満身創痍で新しい舞台へ足掻き続ける、表現者の意地に迫ります。
「素顔の僕」に気づいてくれた、唯一のファンが妻だった

── パラパラ漫画の制作は、奥さんと二人三脚で励んできたそうですね。
鉄拳さん:僕がテレビに出る前、25歳のころから応援してくれていたのが妻でした。ペイント顔が「気持ち悪い」と言われていた初期の初期です。当時は一度だけ素顔でライブに出たことがあったのですが、出待ちで僕に気づいてくれたのは、後にも先にも彼女だけ。そこから会うようになり、結婚することになりました。
── 鉄拳さんの作品には「絆」や「振り子」など夫婦の愛が描かれますが、やはり奥さんとの実話が元に?
鉄拳さん:実は、妻とのエピソードではないんです(笑)。妻も色塗りなどを手伝ってくれましたが、僕の作品に感動してくれることはあまりありませんでした。というのも1本の制作にかかる期間は3か月。工程が大変すぎて、現場はさながら戦場です。手伝いながら「まだこのシーンなの?」と。完成するころには感動も薄れているようです。世界中の人々が感動してくれる作品も、裏側は案外泥臭いというか、過酷なんですよ。