「布おむつの汚れを落とす毎日に疲れ、うつ病になりました」。一通の悲痛なメールから「執念」を燃やしたひとりの主婦がいました。洗濯研究家・平島利恵さんが開発したのは、つけ置きだけで汚れを落とす洗剤。しかし、開発の裏側には、ママ友20人に頭を下げてナプキンの写真を撮ってもらい、みずからはシングルマザーとして名刺1500枚を交換して手売りしながら全国を回る、想像を超える執念がありました。「手間をかけるのが愛情」という育児の呪縛を、ビジネスという武器でブチ壊したママ社長の、逆転の記録です。
「布おむつでうつ病に」一通のメールが人生を変えた

── 平島さんはもともと布おむつ専門の販売会社として起業したそうですね。きっかけは東日本大震災が発生し、紙おむつが買えず、布おむつを使い始めたことだったとか。
平島さん:はい。1人目の子どもが生後2か月のころでした。震災の影響で店頭から紙おむつが消えて。仕方なくスーパーの片隅に残っていた布おむつを使ってみたら、ゴミが出ないし節約にもなる。私には快適でした。それでオリジナルの布おむつ販売を始めたのですが、ある時、ユーザーのお母さんから悲痛なメールが届いたんです。
「汚れを落とそうと必死になる毎日に疲れ、うつ病になりました。もう布おむつの使用は諦めます」と。良かれと思って勧めたものが、こんなに悩ませることになるなんて…と申し訳ない気持ちになりました。そこで「もみ洗いなしで落ちる洗剤」があれば、つらい思いをさせずに済むかもしれない、と思ったんです。
── ご自身も布おむつを使っていて、洗濯自体にストレスではなかったのですか?
平島さん:私自身は洗濯がわりと好きなので、大変だと思っていなくて。でも、ママ友に布おむつをプレゼントしても、後で聞くと気まずそうに「実はもみ洗いするのが面倒で使ってない」と言われたことが何度かあったんです。じゃあ、もみ洗いなしで落ちる洗剤があればもっと気軽に布おむつを使ってもらえるんじゃないか、と考えました。
── 2人目の出産後に家庭の事情で渡米。ニューヨークでの洗濯事情も開発のヒントになったとか。
平島さん:アメリカ人は「汚れたらブリーチ(漂白)」という考えで、もみ洗いする人は少ないんです。でも、漂白剤は汚れを落とすのではなく壊しているだけ。色落ちもするし、においも強い。赤ちゃんが身につけるものに使うのは抵抗がありますよね。
アメリカは洗剤の種類が豊富だったので、現地で100種類以上試してみたのですが、どれを使っても布おむつの汚れは落ちませんでした。「日本で開発するしかない」と決意し、ふたりの子どもを連れて帰国(のちに離婚)。大阪の実家に身を寄せました。