「伝統を新しい形で残していける」時代が変わる境目に立って
── 何度も改良を重ね、ついに販売が始まったのが24年10月だそうです。最初はどこで販売されていたんでしょうか?
大海さん:ウポポイ(民族共生象徴空間)にある国立アイヌ民族博物館内のミュージアムショップです。店頭に出すと毎週売り切れて、追加の発注がすごかったと聞いています。当初はなかなか大量生産できなかったのですが、型を改良して態勢を整え、2025年5月からは通販や北海道大学総合博物館でも手に取っていただけるようになりました。
── 昨年末にはSNSでも大きな話題になりましたね。
大海さん:普段、弊社のネットショップではひと月10個売れる程度だったのですが、その投稿をきっかけに2日で100個ほどの注文が入り驚きました。その反響もあり、この2月からは道内の空港や駅での販売も始まりました。気軽に木彫りの熊を持ち帰れるおみやげとして、少しずつ注目が高まっているように感じています。

── 伝統の技術と新しい技術との結びつきが興味深いです。
大海さん:データ化により、山田さんの作品を別の形で広め、残せることに大きな意義を感じています。万が一、山田さんが彫れなくなってしまっても、データがあれば作品を残すことができます。最初に3Dプリントの熊を見たとき、山田さんが「すごい」と喜んでくださった。あの瞬間に、伝統を新しい形で残していける「時代が変わる境目」に立っている気がしたんです。
──「ただ残す」のではなく、山田さんの「子どもに届けたい」という想いが形になったことが素晴らしいですね。
大海さん:3Dプリンティング業界の同業者の方からも、山田さんの想いを反映した取り組みだと評価していただき、私も誇らしく思いました。実は、グミや置物の売上の一部はひとつ売れるたびに山田さんに還元されるようになっています。山田さんの作品がなければ生まれなかった商品ですから、お返しできる仕組みを作り、お互い励まし合える関係を築けたことが何よりもうれしいですね。
── 今後の展開も楽しみにしています。
大海さん:まずは今販売しているラムネ味の生産、販売を軌道に乗せることが第一ですが、製造していただいている工場や開発関係者と相談しながら、ハスカップ味なども作ってもらえたらいいなと思っています。
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店先で木彫り熊を見つめながらも、「高い」と諦めていた子どもたち。そんな彼らに職人の技を届けたいという山田さんの願いは、置物から一粒のグミとして実を結びました。子どもの頃、欲しくても手が届かなかった宝物。そんな「憧れ」を、今の私たちは次の世代に手渡せているでしょうか。
高級な一点ものだけが伝統ではなく、手に取れる場所にあるからこそ生まれる思い出もあります。 あなたは、子どもたちにどんな「伝統」を残してあげたいですか?
取材・文:阿部祐子 写真:株式会社エムブイピークリエイティブジャパン