動物を飼う人の不安をなくせる世の中にしたい
── 株式会社VetsBrainでは、どんな事業を手掛けていますか?
細山さん:当社のミッションは「獣医療をアップデートし、すべての伴侶動物に届ける」こと。声を上げられない動物たちに寄り添いたいです。事業は3つの柱があり、1つは動物の病気や治療方法について獣医師の先生が飼い主に対してわかりやすく説明できるように、獣医療イラストやアニメーションを豊富に取り入れた診療説明ツールを開発しています。これは先ほどお話しした、愛猫が病気になったときの僕自身の経験をきっかけで生まれました。限られた診察時間のなかでも、専門知識のない飼い主さんにも、わかりやすく情報を伝えられるようになっています。
2つ目はサイエンス領域に特化したイラスト・デザイン・動画制作サービスの提供です。前述の診療説明ツール開発を通じて培われた制作技術を活かし、動物領域に限らずおもにライフサイエンス分野の大手企業や研究機関向けに、論文や学会ポスターに使用するサイエンスイラスト、製品紹介パンフレットや動画を制作しています。最後は、ペット向けの医薬品・日用品、フードなどの製品開発を考える企業に対するコンサルティングで、大手化学メーカーやIT企業などと取引をしています。

── 治療方法について説明できるツールに関し、獣医師からの反響はいかがですか?
細山さん:「ぜひ使ってみたい」という方と、「ITシステムは使いにくそう」と印象がわかれます。若い世代の先生方はツールの使いやすさに加え、自身の勉強もかねて取り入れたいと言っていただくことが多いです。いっぽうで、年配の先生は従来の紙や口頭での説明のほうが慣れているといった声も聞きます。まだ開発中のサービスなので、より使いやすくなるよう、検証を重ねていきたいと思っています。
── 細山さんの最初のキャリアは芸能界。そこから金融業界に就職し、動物に関する事業で起業とは、かなりの方向転換ではないでしょうか?
細山さん:正直なところ、金融業界にいたころよりも、年収はかなり下がっています。でも、お金より自分のやりたいことや情熱に従ったほうが、豊かな人生を送れると実感しています。こうした思いを抱くようになったのは、大学2年生のとき、父が急逝した経験も大きいです。
「人は突然、亡くなることがある」。その事実に衝撃を受けました。それ以来、「人間はいつ死ぬかわからない。だったら、やりたいことに夢中で取り組んで生きたほうがいい」と、どこかで考えている部分があります。僕はまだ事業を立ち上げたばかりではあります。でも、本当にやりたいことを見つけ、自分に正直に生きるようになってから、毎日が充実しています。動物業界に少しでも貢献できたらと考える日々です。
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大切な存在の危機に直面したとき、人生の優先順位がガラリと変わる瞬間があります。皆さんは、仕事やキャリアよりも「本当に守るべきもの」に気づかされた経験はありますか?
取材・文:齋田多恵 写真:細山貴嶺