ゆっくり夕食をとれたのは最近のこと
── すると、イルカさんは今、まさにデザート時間の真っ最中でしょうか。
イルカさん:昨年、父を97歳で見送り、本当に「自分だけの時間」に入った実感があります。ただ、まだものすごくとまどう場面も多いんです。20代から仕事や育児に追われ、夫が39歳でパーキンソン病を発症してからは20年の介護生活。その後は父と母の介護が始まって、自分ひとりの時間というのがほとんどありませんでしたから。
最近、久しぶりにデパートへ行った際も、家族を介護していた時代のクセでつい「急いで帰らなきゃ」と焦っている自分に気づいて。「あ、違った。私もう急いで帰らなくていいんだ」と、ハッとしたんです。ゆっくり食事をして帰ったのもじつは初めてでした。スーパーに行っても自分のための買い物だと本当に量が少ないんですよね。
今は身軽さと心細さの両方があります。家に帰るとがらんとしていて、ふと寂しくなることもある。でも、仏壇に夫と両親の写真を飾ってお茶を淹れて話しかけていると、これまでとあまり変わっていない気もしてくる。ご飯を作らなくていい、夜中の見回りもいらない、洗濯の量も少ない。「ラクになったんだな」と思う反面、気持ちが追いつかないところもあって。今はその状態になじんでいく途中なんだと思います。

── 年齢を重ねると「別れ」も増えていきます。どう向き合ってこられましたか。
イルカさん:ちょっと変わっているのかもしれませんが、私は別れをある意味、楽しみにしているところがあるんです。失う寂しさはもちろんあります。でも、「寂しい=自由を得る」ことでもある。
たとえば、コンサートの集客が難しい時期があっても「それはそれでしかたない」と思っていましたし、いつかコンサートができなくなる日が来てもそれで終わりとは思わない。むしろ「次のことができる」と思えるんです。やりたいことはいくらでもありますから。もちろん仕事をいただけるうちは、責任をもってやるつもりです。でも、もしもある日ふと歌えなくなる日がきても、「自由をもらった」と受け止めて、空いた時間を自分に返していけばいいと思っています。