夫の看護で歌手活動を辞めようと告げたら…
── 診断を受けた後、ご家庭での時間はどのように変わっていきましたか?
イルカさん:息子はちょうど小学校高学年にかかる時期で、中学受験を控えていました。それまで夫は仕事が忙しくて家にいる時間がほとんどなかったのですが、病気で在宅が増えたことで、むしろ家族の時間がグッと増えたんです。息子の受験にもじっくり向きあうことができたので、受験のことはすべて夫に任せました。
── 介護と子育てが続くなかで、仕事との折り合いに悩む場面もあったと思います。一度は歌手活動を休もうと考えたこともあったそうですね。
イルカさん:歌手活動をいったんお休みして、夫の世話に専念したほうがいいんじゃないかと最初は夫に提案したんです。すると夫は、「なんでそんなことを言うんだ」と強く反対して。彼には「イルカの半分は自分である」という自負があったのでしょうね。私が仕事を辞めることは、彼自身の人生を否定することにもつながるし、何より寂しかったのだと思います。
彼は私がいい仕事をすることを心から喜んでいて、入院中も「新しいアルバムが出たよ」と持っていくと、目を輝かせていました。私が仕事を頑張ることが、夫の生きる希望になると確信してからは、迷わずステージに立ち続けようと思えるようになりました。
── 長年、そばで支えてくれていた和夫さんが現場にいない状況で活動を続けることに、不安やとまどいはありましたか。
イルカさん:最初はやっぱり不安でした。現場で夫の姿が見えないことに、ぽっかり穴が開いたような寂しさを感じて、「もう私のことなんかどうでもいいと思っているのかな」と、心細くなったこともあります。
でも、あるときふと気づいたんです。信頼できるスタッフやメンバーに囲まれ、安心して仕事ができている。この環境そのものが、夫が命を懸けて作ってくれた基盤だったんだなと。夫が横にいなくても、私ひとりでやっているわけじゃない。それが大きなモチベーションになりました。