困難を抱える人が安心して生きていけるように

── 純粋な「助けたい」という思いによって、追い詰められてしまうことがあるのですね。

 

高橋さん:そんなとき、着物メーカーさんやプロのメイクさん、カメラマンさんに協力を得てあるイベントを開催しました。成人式で着物を着ることができなかった利用者さんたちに、振袖を着てもらい、撮影会をしたんです。その表情が、本当にキラキラしていて。あんなに輝いた笑顔を見たのは初めてでした。そのときに「いろんな人が関わることで、相談者さんの世界が広がるんだ」と気づかされました。そこから「閉じない、閉ざされていない場所づくり」を本気で考えるようになったんです。

 

── たしかに、社会との関わりを持つことで「新しい世界」を知る相談者の方もいると思います。

 

高橋さん:私たちは相談者の人たちに安心に生きていってほしい、自分の好きなことや楽しいと思えることを見つけてほしい、と願っています。でも、これまで生きるのに精いっぱいだった相談者さんたちは、「何をしたら楽しいのか」、「どうしたら自分の足で立てるの」かもわからないんです。

 

だからまず、いろんな人と接する機会を持ってもらおう、と。他人との関係性のなかでDV経験などのつらいことばかりではなく、自分のテンションがあがったり、心地よかったりする経験を重ねていくことで、「自分が好きなこと」「やりたいこと」に目を向けられるのではないかと思いました。

 

── 実際にこの「ながれる」にお伺いしてみると、とても心地のいい空間だと思いました。自然素材を使った室内は木のぬくもりが感じられ、とてもリラックスできますね。

 

高橋さん:心がけているのは、まず私自身にとって、安心できる場所でありたいということ。結果的に、訪れた人からも「こんなにのんびりできたのは久しぶり」と、言ってもらえる空間になったらいいなと思っています。安心できるこの場所で、それぞれの「自分を心地よくするもの」を見つけてほしいです。

これまで見過ごされた人たちは想像以上に多い

── この施設の名称「ながれる」は、どんな思いで名づけましたか?

 

高橋さん:とどまることなく、流動的にいろんな人が行き来する場所でありたいからです。「支援される人」と「支援する人」と固定された関係ではなく、誰もが気軽に訪れて、必要なときだけ利用できる場所にしたいです。一度ここを利用したとしても今後、来なくなるようになってもいいし、また、来たいと思ったら戻ってきてくれてもいい。そんな流動性を大切にしています。

 

── 誰もが入れる「閉ざされていない」空間だと、安全面で不安に思う人もいるのではないでしょうか。

 

高橋さん:シェルターの利用希望者とは必ず面談しています。「命の危険がある」など、本人の状況によっては緊急を要する方は万全を期して、「ながれる」ではなく、適切な施設を紹介しています。

 

あくまでここは1~2泊の滞在で本人の気持ちを落ち着かせ、自分のこれからを考える時間にしてもらうための施設だからです。不安を軽減する意味でも、宿泊時はスタッフが隣室に宿泊しています。万が一、危害を加える人間が現れたとしても、ひとりではないですし、すぐに警察に連絡できる体制もとっています。

 

高橋亜美
支援事業の一環としてジャムを作り、販売している

── オープンして2か月、どのように感じていますか?

 

高橋さん:これまで数人が一時宿泊を利用しました。「自宅ではまったく寝られなかったのが、ゆっくり眠れた」「クールダウンできて、落ち着くことができた」といった声が届いています。「ながれる」を立ち上げたことで、役所や児童相談所から「本格的なシェルターを利用するほどではないけれど、1〜2日程度は親元から離れたほうがいいと判断された人がいる」といった、相談も来るようになりました。

 

シェルターというと、これまでは「最後の避難所」のような存在だったかもしれません。でも、「おおごとにしたくないけれど、困りごとがある人」が身を寄せる場所、安心できる場所も実は必要だったことに気づきました。そして、ずっと見過ごされていた人たちが想像以上に多いのだなとも感じました。

 

シェルターとして一時宿泊もできる

── これまで焦点を当てられなかった人たちの存在も、浮き彫りになったのですね。

 

高橋さん:私はつらい思いをしている人たちが安心を育んでくことを応援していきたいです。でも、そう思うからこそ「ただひたすら寄り添い、守っていく」のではなく、みんなの力を借りたいと思っています。

 

私自身も自己犠牲的に支援してしまうところがありました。正直なところ、「ずっと支え続けるのはつらい」と思う瞬間もありました。でも、支援そのものをやめようと思ったことは一度もないんです。なぜなら、ずっと張り詰めた表情をしていた相談者の子が、ふっと笑顔を見せる瞬間、心を開いてくれた姿を見せてくれることがあるから。「この仕事をしてきてよかった」と、胸がいっぱいになります。

 

そして、私たちを応援してくれる人たちや、一緒に頑張っている仲間の存在が力になっています。今後、街の人たちをはじめ、さらにたくさんの人を巻きこんでいけたらいいなと思っています。これからどのような形になっていくかはわかりませんが、私自身もその変化を楽しんでいきたいです。

 

取材・文:齋田多恵 写真:高橋亜美