「温泉がない草津に温泉を盗んでくる」。そんなユニークなストーリーを持つ、滋賀県草津市のご当地キャラ「おんせんどろぼう」。生みの親でもあり、草津市観光物産協会で企画・広報を担当している谷坂優希さんによると、群馬の草津温泉と間違われるという悩みが誕生の背景にあったそうです。

草津温泉と間違え海外からの観光客も

おんせんどろぼう
丸いフォルムがかわいいおんせんどろぼう

── 滋賀県南西部に位置する草津市で、今年6月におんせんどろぼうというご当地キャラが誕生しました。どのようなキャラクターか教えていただけますか?

 

谷坂さん:草津市はその名前から群馬県の草津温泉と間違われることが多く、それをきっかけに生まれたキャラクターです。おんせんどろぼうは、ある日、草津市に来た観光客のおばあさんから「草津温泉はどこにあるのか」と聞かれて困ってしまって「僕がおばあさんのために温泉を盗んでこよう」と決意する、心優しいどろぼうという設定です。

 

── 草津温泉と間違われることが誕生のきっかけだったんですね。

 

谷坂さん:昔から草津温泉と間違えた問い合わせをいただくことは多かったんですが、2022年に全国のみなさんを対象に草津市の観光に対する意識調査を行ったところ、草津温泉を念頭に答えられたお客さまが非常に多くて。たとえば「草津市の観光名所は?」の問いに「温泉」という回答が多く、正しい結果が出なかったんです。そのことに危機感を覚え、草津市の知名度を上げる取り組みをしたいと考えるようになりました。

 

そこで、まずは「温泉ないけどいいとこ草津」というプロジェクトを立ち上げました。協会のホームページや観光パンフレットに「滋賀県草津市に草津温泉はございません」と表記することから始め、ほそぼそと取り組むなかで「温泉を盗むどろぼう」という設定をふと思いついたんです。私のほうで簡単なラフを描いて、デザイナーの方にイラストに起こしていただき、おんせんどろぼうが誕生しました。

 

ただ、草津の知名度をあげて実際に来ていただくところを目標にしたかったので、インパクトのあるキャラクターを作って出して終わりではなく、より好きになってもらうしかけとしてキャラクターのストーリーを作ることにしました。このストーリーは公式ホームページで紹介しています。

 

── 草津温泉と間違えた問い合わせには具体的にどんなものがありましたか?

 

谷坂さん:「おすすめの温泉宿はどこですか」といったメールでの問い合わせは毎年100件はゆうに超えていました。メディアの方から、湯もみの写真素材についての問い合わせがあったりもしましたね。草津温泉と間違えた台湾からのお客さまが観光案内所にいらっしゃったこともあります。

 

── 台湾から…!それは観光客の方も案内所の方も驚いたでしょうね。

 

谷坂さん:こちらから群馬のほうに行くのは9時間くらいかかるので、そのことをお伝えして草津市をご案内させていただきました。

 

旅行って1年に何回もするものではないので、お客さまが間違われたという話を聞くと知名度の低さが理由だととても申し訳なく思っていました。おんせんどろぼうには、その申し訳なさも込められています。