「幼いころの自分と似てる」ストリートチルドレンとの出会い

── 25歳のとき、ガーナを訪れていた際にストリートチルドレンと出会い、それをきっかけにガーナでの子ども支援を始めています。どんな出会いだったのでしょうか。

 

矢野さん:ガーナに2か月ほど滞在して帰国しようというときに、友人たちがお別れ会をしようと言ってくれて。人気の韓国料理店のテラス席で7〜8人で食事をしていたんです。そうしたら、ストリートチルドレンたちがやってきて。物乞いをするのですが、そのひとりの少年が、幼少期の僕にすごく似ていたんです。それがものすごく衝撃的で。

 

僕はもともと家族とガーナで暮らしていたのに、盗賊団に襲われたことがきっかけで避難するために日本へ渡りました。ところが、安全なはずだった日本では見た目の違いにより差別され、つらい日々が続いて。「なぜ自分だけがこんな人生を歩まないといけないのか」という憎しみが膨らんでいき、自分の感情を持て余していました。でも、その少年に会ったとき、「神さまは、誰にも守ってもらえない子どもたちを守るために、僕にこういう人生を与えてくれたのかもしれない」と、今までの自分の人生すべてを肯定することができたんです。

 

── ひとりの少年との出会いで、大きく気持ちが変化したのですね。

 

矢野さん:そのとき、もうひとつ衝撃的なことがあって。それは、僕以外の友人たちはストリートチルドレンのことをまったく気にかけていなかったことです。僕は、その子に出会って、「なぜこの子はこういうふうにしか生きていけないのだろう。何か自分にできることはないのだろうか」と思っていたのに。

 

その違いはきっと「孤独を知っているかどうか」の違いだと思います。僕は8歳から10年間、児童養護施設で生活しました。夏休みなどは「なぜきみはこの施設に来ることになったの?」「親はどんな仕事をしているの?」ってみんなと寝ずに語り合ったりもしました。親に見捨てられ面会にも来ない…そんな自分の身の上話をすることで、みんなで孤独を分かち合っていました。だから、そのストリートチルドレンの子がひとりで生きていることが、どうにも他人ごとに思えなかったんです。

ガーナに幼稚園と中学校を創った理由

── 2010年にガーナに幼稚園を作り、そののち中学校を設立されたそうですね。どういう経緯があったのでしょうか。

 

矢野さん:ガーナでは、児童労働が大きな社会問題のひとつになっています。さらに移民や難民の問題も深刻で、僕が出会った子も、国境を越えてガーナに来たひとりでした。子だくさんの家庭が当たり前のように多いせいもあり、子どもに関する社会問題が山積しているんです。子どもたちを守るためには、教育が何より大事。だから、平等な教育を受けられる学校や施設を作りたいと思いました。

 

矢野デイビット
ガーナの子どもたちと

── これまで創設された幼稚園や中学校に通う子どもたちとは、どう関わっているのですか。

 

矢野さん:学校の先生たちこそが前に出るべきだと思っているので、僕はあまり前面に出たくないんです。教育に力を入れて子どもたちの未来を変えてくれている先生たちを見て子どもたちに「こんな大人になりたい」と思ってもらえたらいちばんいいなと。

 

そういえば、母が営むホテルの改修工事で数人の職人に仕事を依頼したのですが、そのなかのひとりが僕の学校の卒業生だったんですよ。ある日、「デイビット!」って名前を呼ばれたから、驚いて「僕の名前を知ってるの?」と聞いたら、「僕はきみが作った学校の卒業生だよ」と教えてくれて。彼らはまぁサボるのがうまいんですが(笑)、最初から僕のことをわかっていて、うれしくて甘えていたみたい。その後は、「元気?今どうしてるの?」「さっき車で走っているの見かけたよ」と電話をくれるようになりました。こんなふうに大人になった子どもたちと会えるのはうれしいですね。