父の他界後にハッと気づいたこと
── 現在のご両親とはどんなご関係でしょうか。
矢野さん:母はいまなおパワフルな人で、僕が迷ったり臆病になったりしていると、「やってみなきゃわからないし、やるべきよ」と背中を押してくれます。「もしあなたのその経験が失敗したとしても、絶対にあなたの人生にプラスにしかならないからとにかく頑張りなさい」と。
父は数年前に他界しました。80歳を過ぎていたので長生きしてくれたと思います。父とはもう話せなくなりましたが、いまは「あのときはこう思っていたのかな」とか人生観を見つめ直すようになりました。「生きる」ということの意味がすごく変わったのを感じています。体を使っていろんなことに挑戦できるのは生きている間だけ。いまは命をしっかり使いきることがどれだけ大事なことか、すごく考えさせられるというか。
父の存在はいまはもうないけれど、父が建築家として手がけてきたいろいろな建築物が世界中に残っていることもすごく感慨深いです。僕自身の人生観も、大事にしたいことをより大事にする生き方をすごく考えるようになりました。これから残されていく人たち、新しく生まれてくる世代の人たちに何を残せるのか、何を大切に思って生きていくのか。考えることはたくさんありますね。
── お父さんの存在が背中を教えてくれているのですね。今後、目標にしていることはありますか。
矢野さん:現在計画しているガーナの私立学校を完成させることです。その私立学校は戦争孤児なども含めて、日本でいう児童養護施設のような施設です。ガーナや周辺国の施設で生活している10~15%の子どもたちが通えるようにしたいです。自分のキャパを超えるともいえる大きな挑戦ですが、実現できたらすごく意味のあること。実現するためにも、自分自身のエネルギーを燃やしてくれる音楽を大切に続けていきたいですね。また、講演活動を通して、若い世代の人たちに向き合い、役に立てることがあるのであれば伝えていきたい。あとは仲間たちと一緒に自分の物語を歩みたいです。
取材・文/高梨真紀 写真提供/矢野デイビット